ビクセンSXD赤道儀 1.【準備編】

ビクセンSXD赤道儀 準備編

SXD赤道儀

ビクセンから天体写真ファン待望のSXD赤道儀が登場しました。SX赤道儀を内部の素材から見直し、剛性も精度もアップしたその赤道儀の実力はどれほどのものでしょう。今回、天体写真撮影に使用してみましたので、気になる使用感をまとめてみました。


SXD赤道儀の外観

SXD赤道儀+ED103S望遠鏡

今回使用したのはピラー仕様のSXD赤道儀。組み立てたときの外観は、ホワイト色のピラーがすらっと立ち上がっている こともあって、とてもすっきりした印象を受けます。強度的にも安定感がある立ち姿をしています。

SX赤道儀と比べると、モーターカバーがブルーからホワイトに変わったことで、より高級感が感じられるようになりました。全体的に従来の赤道儀のように無骨な感じはなく、女性的でスマートな赤道儀だと思いました。赤道儀表面もフラッシュサーフェイス化されていますので、モーターの出っ張り等を気にせず持ち運びができるのが美点です。遠征で移動させるときには助かる構造ですね。

右の写真はこのSXD赤道儀ビクセンED103S望遠鏡を載せた全景写真です。SX赤道儀シリーズは極軸の下側にモーターが内蔵されているので、バランスウェイトが少なくて済むのが美点の一つです。このシステムでは1.9キロのウェイト一つでバランスが取れています。



SXD赤道儀の組み立て

まずはピラーの組み立てです。ピラーの脚部分は3つの大きなネジを用いてピラー柱に締め上げる構造です。少し手間がかかりますが、一度組み上げてしまえば外すことはほとんどない部分です。というのはこのピラー柱部分は、(取扱説明書に記載されているわけではありませんが、)市販のレンチを使えば下の写真のように上下に分割できます。ピラー柱の下部分に上部分を被せて横からのネジで固定する方式です(下写真の左から右のように)。

ピラーの3つの脚部分を毎回取り外す必要がないので、これならピラーを遠征撮影に持っていっても素早く設置することができます。

ピラー取付の様子(右から左へ)

SXD赤道儀本体は、ピラー架頭を本体底に取り付けた後、ピラー柱に載せて横からネジで締め上げます。一般的な方法ですが、少し残念なのは取付ネジのサイズがピラー分割部分と異なることです。同じネジサイズだと使用する六角レンチも1種類で助かります。遠征撮影時の設置、撤収作業はなるべくシンプルにいきたいですから、できれば今後の改善をお願いしたいところです。

ピラーに赤道儀を載せる様子

後は引き出し式のバランスシャフトを伸ばしてウェイトを取り付け、鏡筒を載せてスターブックを繋げば設置完了です。要領さえ得れば10分程度で組み立てられるでしょう。今回使用したビクセンED103S望遠鏡は、取っ手がついているので、赤道儀に載せるのも楽々でした。こういうちょっとした装備はありがたいです。

赤道儀に望遠鏡を載せる様子


極軸設定とホームポジション

天体写真を撮る時は正確な極軸合わせが必須です。マニュアルを読みながら、赤道儀の極軸を天の北極に正確に合わせましょう。このSXD赤道儀には極軸望遠鏡が標準装備されています。時角計算の必要ないタイプですから、順を追えばどなたでも簡単正確に極軸を合わせることができると思います。水平出しに必要な水準器も極軸望遠鏡部分に装備されています。

付属している極軸望遠鏡は6倍20mmで南北対応のモデルです。暗視野照明装置も内蔵されており、覗きやすいモデルです。できればもう少し倍率が高いと見やすい気もしますが、上位機種のアトラクスと同じタイプですので十分な備え付け精度を得ることができるでしょう。

極軸望遠鏡

極軸を合わせたら、いよいよ目的の天体を視野に導入してみましょう。まずは鏡筒を西向きに向け、ホームポジションを取るところから始めます。最初はマニュアルを読みながら順を追って操作していきましょう。簡単な操作ですから操作方法にとまどうことはないと思います。何度か使って慣れてしまえば、マニュアル無しで操作できると思います。


スターブック(STAR BOOK)

SXD赤道儀とスターブック

SXD赤道儀にはSX赤道儀同様、赤道儀をコントロールするスターブックが付属しています。SXD赤道儀に標準付属するスターブックは最新バージョンですので、PEC機能やバックラッシュ補正機能など、撮影を助けてくれる多種多様な機能を使うことができます。

もちろん従来のSXユーザーもビクセンの公式サイトでバージョンアップすることができます。SXユーザーでまだバージョンアップされていない方は、是非ご利用ください。

このスターブックは、今回初めて使ってみたのですがとても便利なツールです。大きなカラー液晶画面にビジュアルで表示されますから、イメージも掴みやすく楽しく操作することができます。赤道儀を使い慣れているベテランの方ですと、なんだか子供だましのような気がして敬遠されるかもしれませんが、全くそんなことはありません。実は私も今回使ってみるまでは「そんな携帯ゲームみたいなもので・・・」と思っていましたが、使ってみてちょっとしたカルチャーショックを受けました。

このスターブック、SX赤道儀発売当初の初期バージョンのものは、動きも遅く画面が切り替わるまで数秒かかったそうですが、SXD赤道儀に付属する最新バージョンは全くストレスを感じさせず、サクサク動いてくれます。パソコンともクロスLANケーブルを繋ぐと通信が可能になります。アストロアーツ社のステラナビゲーター7,8からも赤道儀の制御が 可能ですから、本格的な撮影派の方にも助かるでしょう。

ちなみにスターブックの接続は赤道儀と専用ケーブル1本で結ぶだけです。電源も赤道儀側から供給されますので、コードが多くて絡まることもなくスッキリしています。赤道儀から外せば、単独のスターチャートとしても利用可能になります(この場合はスターブック本体に12V電源を差し込む必要があります)。



自動導入と恒星時追尾

赤道儀を設置し極軸を合わせた後、ホームポジションを取れば自動導入を開始できます。スターブックに表示される任意の星を選べば、その方向へと赤道儀はスイングを始めます。もちろんまだアライメントが済んでいませんので、視野内中央に目的の星は捕らえられませんが、おおよその方向は向いてくれます。

自動導入中のSXD赤道儀

自動導入が終わって目的方向におおよそ向いた後、モーターを動かして目的星を正確に視野中央に導入します(これを「アライメント」と呼びます)。1つの星でアライメントを行えば、次からは100倍の視野内に目標の天体が入ってきてくれます。デジタル撮影目的なら2つの星でアライメントしておけば十分でしょう。

自動導入は恒星時の1200倍速というだけあって、見た目もとても速く動き、素早く目標天体を捕らえてくれます。導入中の動作音は少し大き目ですが、設定で導入速度を落とすことで音を小さくすることも可能です。音が気になるベランダなどで夜間使用するときにはありがたい機能です。

恒星時追尾中の音はDCモーター独特のものです。比較的低い音ですので嫌な感じはしませんが、ステッピングモーターを使った赤道儀とは明らかに動作音が違います。言葉で表現すると「ジィンジィン」という感じでしょうか。

モーターの粗動と微動は、スターブックで細かく変えることができます。 スターブック上に表示されるチャートの拡大率に合わせてモーターの動作量が変更されますので、使い初めは少し使いづらいかもしれませんが、慣れればこちらの方が移動量をビジュアル的にイメージできて分かりやすいです。 モーター粗動時に望遠鏡視野内を覗くと、DCモーターらしいカクカクした動きですが、微動時はほとんど気になりませんでした。



PEC機能

SXD赤道儀発売と合わせたスターブックのバージョンアップで、PEC機能が追加されました。PEC機能は天体写真撮影を快適に行うための機能ですが、どのくらい効果があるのか実験してみました。

スターブック

その前にPECという言葉の説明です。SXD赤道儀をはじめ、星を追尾する赤道儀はギアとギアが組み合わされて駆動しています。ですので、どんなに精度良く作っても、ある程度は機械的誤差が生じてしまいます。もちろん観望では全く問題にならない程度のエラーですが、天体写真を撮るときには問題になってくるときがあります。そのエラーのことを「ピリオディック・エラー」とか「PE」と呼んでいます。

今回スターブックに追加されたPEC機能は、それらのエラーをソフトウェア上で補正する機能です。実際に使用するときは、コントローラーにピリオディックエラー量を学習、記憶させた後、それを再現することでソフトウェア的にエラーを低減させるようになっています。

デジタルカメラ(冷却CCDカメラ)を望遠鏡に取り付けて、ピリオディックエラーの量を測定してみました。オートガイダーの登場であまり問題にならなくなりましたが、やはり気になりますものね。下がその結果です。ピリオディックエラー量は±9秒角程度のようです。
※画像は10分露出のものです(SXD赤道儀はウォームホイール1周が約8分間となっています)。

ピリオディックエラー

次にPEC機能も利用してみました。実際にこの機能を利用してみるとPE量が大きく減るのがよくわかりました。そのPEC機能を使用したときのエラー量の様子が下の画像です。上と比べると見た目にも大きくエラー量が減っているのがわかります。測定すると±3秒角程度までエラー量が改善されています。私も今回初めて使ってみて、PECが優秀な機能であることがよくわかりました。

PEC機能を使ったときのエラー量

上記したように、PEC機能を利用するときには、あらかじめスターブックにPE量を学習させる必要があります。学習のためにウォームホイール1周分(約8分間)ガイドするのは手間がかかりますが、ガイド鏡を使いにくい星野撮影時などに威力を発揮しそうです。この結果を見ると、うまく使えばオートガイド無しで簡単な直焦点撮影もできるかもしれませんね。


オートガイド機能について

SXD赤道儀はオートガイド端子も備えています(スターブック本体にあります)。接続はRJ11端子ですので、SBIG社等の市販オートガイダーに接続することができます。 以前販売されていたビクセンのオートガイダーも接続できますが、この場合はマニュアルに従ってジャンパーピンを変更する必要があります。

オートガイド時のモーター修正速度は、スターブック上で変更することができます。恒星時の0.1倍というように変更できますので、使う撮影光学系にあった数値に設定可能です。この辺りはご自分の光学系に合わせて、いろいろな数値で試してみるのがよいでしょう。

▼SXD赤道儀は、SXD2赤道儀に生まれ変わりました。
ビクセン SXD2赤道儀

ビクセン
SXD2マウント

タカハシFSQ-85ED鏡筒 + ビクセンSXD2赤道儀 +
K-ASTECバンド撮影・眼視セット

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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