ビクセンSD103SIIのインプレッション

ビクセンSD103SIIのインプレッション


ビクセンの2枚玉SDアポクロマート望遠鏡SD103Sが、2023年6月にリニューアルされ、SD103SIIになりました。更に完成度の高まったSD103SIIを観望や実写に用い、使用感を確認してみました。
なお、前モデルであるSD103Sは、その前のモデルであるED103Sの接眼部を変更したものであり、最新モデルのSD103SIIは、SD103Sの対物レンズのスペーサーを変更したモデルです。そこで今回は、ED103Sのレンズスペーサーと接眼部を交換し、SD103SIIと同等の性能になったものを使ってテストしました。


対物レンズのリングスペーサー

屈折望遠鏡の対物レンズには、性質の異なる2枚のレンズが用いられており、この2枚のレンズの間に、スペーサーとして錫箔が挟まれています。

前モデルのSD103Sやその前のED103Sには、錫箔の小切片がレンズ外周部に3枚配置されていました。この小切片は、下画像のように対物レンズ有効径内に飛び出していたため、レンズに光が入射すると、回折により星像の周囲に放射状の欠けが生じました。

リニューアルされたSD103SIIでは、3枚の小切片がリング形状のスペーサーに変更され、対物レンズを遮らないように改善されました。

上画像は、リング形状スペーサーに交換後のレンズです。対物レンズへの飛び出しが無くなり、レンズがすっきりしました。


眼視で感じた星像の違い

光害のある自宅前で、リングスペーサーに変更されたSD103SIIを用いて木星を観望してみました。幸いこの日は気流が良く、縞模様がよく見えました。あくまで個人的な印象ですが、リングスペーサーに交換する前と比べて、縞模様のコントラストが向上したように感じました。

次に、恒星や二重星を用いて星像を確認しました。まず、アンドロメダ座α星のアルフェラッツを視野に入れました。

高倍率で見ると、錫箔が飛び出していた時は、星の外周部分にスパイダーの回折光のような突起が発生していましたが、SD103SIIでは改善され、滑らかになりました。また焦点内外像でも切れ込みがなくなり、星像が一段と引き締まった印象を受けました。

続いて、美しい二重星として知られるアンドロメダ座のアルマクを視野に入れます。2等星の主星と5等星の伴星が、オレンジとエメラルドグリーンに輝きながら寄り添っている姿がシャープに見え、色合いの違いもよくわかりました。

撮影画像で確かめた星像の違い

次に、SD103SIIと冷却CMOSカメラASI2600MCProを使って、明るい星をテスト撮影してみました。

下は、撮影した画像の全体像と、はくちょう座γ星の部分を拡大した画像です。

リングスペーサー交換前の鏡筒では、輝星の周囲に放射状の欠けが発生していましたが、リング形状スペーサーになったSD103SIIでは、星の周りに欠けは発生せず、星像が改善されていることが撮影画像からも確認できました。


SD103SIIで天体撮影

SD103SIIとZWO社の冷却CMOSカメラ ASI2600MCProを使用して、アンドロメダ大銀河を撮影しました。SD103S望遠鏡には、撮影用の補正レンズ「SDレデューサーHDキット」を使用しました。

上が撮影した画像です。8分露出した画像を8枚重ね合わせて、ステライメージ9でコントラストを高めています。

アンドロメダ大銀河の腕の部分も良く写っており、暗黒帯のディテール描写も良好です。また、明るい星にも回折による欠けは発生しておらず、銀河の周りの暗い星々もスッキリと綺麗に感じます。解像感も高く、露出時間をさらに増やせば、迫力のある写真に仕上がりそうです。



10センチ屈折は天文ファンのスタンダード

口径10センチクラスの屈折式望遠鏡は、国内外のメーカーから様々な機種が発売されています。特にF7クラスの2枚玉アポクロマート屈折望遠鏡は、オールマイティに使える天体望遠鏡として、天文ファンに根強い人気があります。

国内メーカーでは、高橋製作所がFC-100Dシリーズを発売しています。鏡筒径やF値を変えて、眼視用や写真用に3種類もラインナップしていることからも、10センチクラスの2枚玉アポクロマート天体望遠鏡の人気が高いことがうかがえます。

口径が10センチになると、天文入門者用の8センチクラスと比べて集光力に余裕があるので、倍率を上げることができ、惑星の模様もよく見えるようになります。それ以上の口径になると、一気に価格が上がり、望遠鏡も大きく重くなるので、扱いやすさの点でもバランスの取れた大きさでしょう。

基本に忠実なSD103SII

ライバル機の多い口径10センチクラスの望遠鏡の中で、ビクセンSD103SIIは、ED103Sの頃から安定した人気を集めてきました

長く人気を保ってきた理由は、基本に忠実に作られた製品だからでしょう。795mmという焦点距離は、今の時代としては少々暗めの設定ですが、高倍率を得やすく、惑星や月の観望に適しています。 撮影時の補正レンズとして、SDレデューサーHDキットも用意されており、これを使用すれば、焦点距離は624mmまで短縮され、F値も6.1まで明るくなります。このように本格的な天体撮影にも対応できるオプションが揃っている点も魅力です。



まとめ

今回のテストにより、SD103SIIはより完成度を高めた望遠鏡であることが確認できました。

撮影時の星像だけでなく、眼視時にも星像の周りのジフラクションリングの欠けがなくなり、前モデルに比べて星像に不自然さがなくなったと感じます。

今回のリニューアルによって、SD103SIIは、天体観測から本格的な天体撮影まで、幅広く使える望遠鏡になったと言えるでしょう。

上述の通り、口径10センチの天体望遠鏡は使い勝手が良く、一本は手元に置きたい望遠鏡です。ビクセンSD103SIIは、様々な楽しみ方ができる有力な候補になると思います。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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