ポンス・ブルックス彗星を観察しよう



ポンス・ブルックス彗星を観察しよう

ポンス・ブルックス彗星を観察しよう

ポンス・ブルックス彗星(12P /Pons-Brooks)は、約70年で太陽を一周する周期彗星です。2024年4月20日に近日点(太陽に最も近づく時)を迎え、2024年6月2日から3日にかけて地球に近づく予定です。日本から条件良く観察できるのは、3月下旬から4月上旬にかけての時期です。是非、70年振りに見頃を迎える、ポンス・ブルックス彗星を観察してみましょう。



ポンス・ブルックス彗星とは

ポンス・ブルックス彗星は、1812年にフランスの天文学者ポン(ス)によって発見されました。その後、1883年にアメリカの天文学者ブルックスによって再発見され、ポン(ス)が発見した彗星と同一であることが確認されて、2人の名前を冠した周期彗星として登録されました。

ポンス・ブルックス彗星は、約70年をかけて太陽を一周しますが、その公転軌道は、黄道(天球上における太陽の見かけ上の通り道)に対して約74度も傾いており、地球や他の惑星の軌道をほぼ縦に横切るように回っています。



彗星の見える方向は

3月中旬から4月にかけて、ポンス・ブルックス彗星は、日没後の西北西の空に見ることができます。天文薄明終了時(19時半頃)の彗星の高度は、3月15日で約15度です。

その後、彗星は徐々に高度を下げ、3月下旬~4月上旬の高度は10~15度になります。4月中旬以降は10度以下とさらに高度が低くなり、近日点を通過した後は北半球からは見えなくなってしまいます。

上図のようにポンス・ブルックス彗星の高度はかなり低くなるため、西~西北西の方向に障害物がなく、低空までよく見渡せる場所で観察・撮影することをお勧めします。



彗星の明るさは

ポンス・ブルックス彗星が最も明るく見えるのは、彗星が最も太陽に近づく4月21日前後で、明るさは4等級前後と予想されています。しかし、この時期は彗星と太陽の距離が近すぎるため、太陽の光に隠されて彗星を観測することはできません。

ポンス・ブルックス彗星を日本から条件良く観測できるのは、3月下旬から4月上旬にかけてです。その頃には、4~5等級まで明るくなると予想されています。3月25日は満月で夜空が明るいですが、その2~3日後には、彗星の観察時間には月がまだ昇ってこないため、月の影響を受けずに観測することができるようになります。

4月9日が新月ですので、3月下旬から4月上旬にかけてが、ポンス・ブルックス彗星を観測・撮影するのに最も条件の良い時期と言えるでしょう。是非この時期に狙いを定めてポン・ブルックス彗星を観察・撮影してみてください。



双眼鏡を準備しよう

街灯がなく夜空が暗くて星空が綺麗な場所なら、肉眼で6等級の星まで見ることができると言われています。しかし、彗星は恒星と異なり、淡く広がっているため、4等級の明るさがあっても肉眼で見えるかどうかはギリギリのところです。

それに加え、ポンス・ブルックス彗星は太陽に近く、天文薄明中の低空で輝くため、肉眼で見つけるのはかなり難しく、双眼鏡を使用して観察することをお勧めします。

天体望遠鏡で観察することも可能ですが、彗星の観察には、準備の手間がかからず機動力の高い双眼鏡の方が適しています。また、天体望遠鏡と同じく、双眼鏡も口径が大きいほど暗い星まで見えますが、口径が大きいと大きく重くなるため、手持ちの場合は口径4センチ程度の双眼鏡が扱いやすいでしょう。

倍率は10倍前後、見かけ視界が広いタイプの双眼鏡が彗星の観察に使いやすいでしょう。双眼鏡は、彗星だけではなく、星雲や星団の観望にも使えますので、この機会に1つ性能の良い双眼鏡を用意しておくと今後の星空観望にも使えて便利でしょう。



ポンス・ブルックス彗星を撮影してみよう

デジタル一眼レフカメラや天体用CMOSカメラをお持ちなら、ポンス・ブルックス彗星の撮影にもチャレンジしてみてはいかがでしょう。使用する光学系は、焦点距離が短めの屈折望遠鏡や、200ミリ前後のカメラレンズが使いやすいでしょう。望遠鏡とカメラを載せる架台は、設置撤収が素早く行えるポータブル赤道儀や小型赤道儀がお勧めです。

撮影の注意点として、ポンス・ブルックス彗星はすぐに西空に沈んでしまうため、早めに撮影場所に着いて、日没前にセッティングを終えておくことが大切です。また、北極星の位置も前もって確認し、天文薄明が終了したらすぐに撮影に移れるように準備しておきましょう。

彗星は恒星の間を動いていきますが、幸い3月から4月にかけてのポンス・ブルックス彗星は、地球からまだ遠い位置にあるため、移動スピード(固有運動量)は速くありません。200ミリ前後のレンズでも、露光時間に数分かけて、じっくり撮影することができます。



70年ぶりの彗星

周期彗星と言えば、約76年周期で回帰するハレー彗星が有名で、1984年に回帰した時は多くの天文ファンが観望・撮影に盛り上がりました。ポンス・ブルックス彗星が前回回帰したのは、1954年です。1954年と言えば、日本ではちょうど高度経済成長に突入しようという時期で、まだデジタルカメラは存在しておらず、観測精度も現在とは大きな差がありました。

今回の回帰は、初めてデジタルカメラでポンス・ブルックス彗星の姿を捉えることができるチャンスです。この機会を逃すと次の回帰は2095年ですので、今回の回帰がポンス・ブルックス彗星を観察・撮影できるラストチャンスという方がほとんどでしょう。

今秋には、紫金山・アトラス彗星も地球に近づき、明るくなると予想されています。ポンス・ブルックス彗星を観測・撮影しながら、秋の紫金山・アトラス彗星に備えるのも楽しいですね。



著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。

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