初心者のための天体撮影ガイド
はじめに
初めて天体撮影に挑戦する方のために、この記事では基本的なステップを解説しています。まずは、月が小さい時期を選び、天気予報を確認して、星空がよく見える場所に出かけてみましょう。基本的な心構えを知っておけば、スムーズに天体撮影に取り組むことができます。このガイドが、あなたの天体撮影の第一歩となり、星空や天体を写真に収める楽しさを感じるきっかけになれば幸いです。
天体撮影の基礎知識
天体撮影を始める前に、いくつか基本的なことを覚えておくと、より満足のいく写真を撮ることができます。この章では、特に重要な「月の影響」と「天候」について説明します。
1. 月の影響
月明かりは、星空の見え方に大きな影響を与えます。満月の夜は、月が空を明るく照らすため、星の光がかき消されてしまい、星空の撮影には適していません。そのため、天体撮影を計画する際は、月明かりのない時期を選ぶのがポイントです。新月の夜がベストですが、私の場合、上弦の月から下弦の月の間の月明かりのない時間帯に天体撮影を行っています。
こうした「月齢」に関する情報は、天気予報アプリや月齢カレンダーで確認できるので、あらかじめチェックしておくと良いでしょう。
ただし、月が明るい夜でも天体撮影を楽しむ方法があります。特に「ナローバンドフィルター」を使った撮影では、特定の波長の光だけを捉えることで、月の明るさの影響を軽減しながら美しい写真が撮れます。これは少し上級者向けですが、天体撮影に慣れてきたら試してみてはいかがでしょう。
また、惑星撮影なら、月明かりの影響を気にせず撮影が楽しめます。木星や土星などの惑星は明るいため、月の明るさに左右されることなくはっきりと捉えることができます。
2. 天候の重要性
天体撮影では、空が晴れていることが必須です。空に雲がかかっていると星が隠れてしまい、せっかくの遠方に出かけても撮影することができません。また、空気中の透明度も星の見え方に影響します。一般的に、撮影地の標高が高いほど空気が澄んで星空がクリアに見えるため、できるだけ標高の高い場所が理想的です。また、夏場よりも秋や冬の方が空気の透明度が高いことが多く、星の輝きが一層引き立ちます。
天気の確認については、気象庁の天気予報に加えて、WindyやGPV天気予報なども活用し、観測地の今夜の天候を細かくチェックしましょう。WindyやGPVは、観測地の風速や雲の動きなども確認できるため、撮影場所の天候をより的確に見極めることができます。
撮影場所の選び方
天体撮影では、夜空が暗い場所を見つけることが重要です。街の明かりが少なく、光害がほとんどない暗い場所を選ぶことで、星々や天の川をより美しく写すことができます。以下に、暗い星空を見つけるためのポイントを紹介します。
1. 光害の少ないエリアを選ぶ
星空を観察・撮影するには、都市から離れた場所が理想です。光害が少ないエリアは暗い星まで見えるため、写真に写る星の数も増え、より鮮明に仕上がります。場所ごとの光害の影響が分かる「光害マップ」を活用し、街明かりの届きにくいエリアを探してみましょう。
2. 山間部や海岸付近の場所を探す
山間部は都市から遠く、都市部の明かりが山脈で遮られるため、夜空が暗く保たれていることが多いです。特に標高が高い場所は、空気が澄んで透明度が高いため、星々の輝きが一層際立ちます。海岸線も広々とした空が確保でき、街明かりが届きにくい場合が多いのでおすすめです。
3. シミュレーションアプリで方角を確認する
スマホやPC用の星空シミュレーションアプリ(ステラナビゲーターやSkySafari7など)を活用し、撮影したい天体や天の川の方角をあらかじめ確認しておくと、より適した撮影場所を選びやすくなります。
実際に観測地へ行く際の注意点
天体撮影のために暗い観測地へ向かう際には、前もって準備しておきましょう。遠出になることが多いので、以下の点に気をつけて計画を立てましょう。
1. 交通手段とアクセス
観測地が自宅から離れている場合、車での移動が便利です。公共交通機関を利用する場合は、駅からの移動手段も確認し、現地に早めに到着できるよう計画しましょう。観測後は遅い時間の移動になるため、帰り道や終電の時間も忘れず確認しておきます。また、移動や設置作業がしやすいように、懐中電灯やヘッドライトを持参するようにしましょう。
2. 防寒対策
夜間は気温が下がるため、季節にかかわらず防寒対策が重要です。上着や帽子、手袋などの防寒具に加え、ホッカイロなども準備しておくとよいでしょう。特に秋や冬は気温が急に下がるため、厚手のアウターやブランケットも役立ちます。また、温かい飲み物を持っていくと長時間の観測が快適になります。
3. 観測地で必要なアイテム
天体撮影には、撮影機材や観測道具に加えて、以下のようなアイテムを持っていくと安心です。
赤い懐中電灯:暗順応した目を維持するために、通常の白いライトではなく、目に優しい赤いライトが便利です。両手が自由になるヘッドライトタイプが便利です。
虫よけスプレー:夏場は虫が多いため、虫よけ対策も忘れずに。
4. 周囲への配慮
天体観測地が公園や共有スペースの場合、他の観測者や周囲の人の迷惑にならないよう配慮しましょう。ライトは周りに向けない、大きな物音を立てないなど、マナーを守って静かな環境を保つことも大切です。
機材選びの基本
天体撮影を始める際、最初から高価な機材を揃える必要はありません。お持ちのカメラやレンズで十分に撮影を楽しめます。まずは手軽に始め、双眼鏡や天体望遠鏡などの機材を少しずつ増やしていくことで、末長く楽しむことができます。ここでは、機材選びのポイントについてご紹介します。
1. カメラ
初心者におすすめのカメラは「デジタル一眼レフ(DSLR)」または「ミラーレスカメラ」です。これらはマニュアル設定が可能で、シャッタースピードやISO感度を細かく調整できるため、夜空の撮影に適しています。特に以下の点に注目してカメラを選ぶと良いでしょう。
高感度ISO性能:星空を撮影するには、短い露光時間でも星が写る高感度なカメラが理想です。ISO感度が高くてもノイズが少ない機種を選びましょう。
広いダイナミックレンジ:星や暗い天体の諧調を滑らかに撮影するため、ダイナミックレンジが広いものが適しています。
※最近では一部のスマートフォンも星空撮影モードを搭載しており、星空の撮影が可能ですので、まずはスマートフォンで試してみるのも良いでしょう。
2. レンズ
星空撮影には、広い範囲を撮れるレンズが適しています。星景撮影におすすめは「広角レンズ」で、焦点距離が24mm前後のものが最初は使いやすいでしょう。また、以下の要素に注意してレンズを選びましょう。
開放F値が小さいもの(F2.8以下):光を多く取り込める明るいレンズは、短い露光時間でも星空をはっきりと撮影できます。
単焦点レンズ:単焦点レンズはシャープな画質が得られやすく、昔から星空撮影に人気があります。初めての方は24mmのF2.8や35mmのF1.8レンズなど、広角で明るめのレンズを選ぶとコストパフォーマンスも良く使いやすいでしょう。ズームレンズなら開放F値が2.8前後の広角ズームレンズがお勧めです。
3. 三脚
天体撮影ではカメラを固定して長時間露光を行うため、安定した三脚が欠かせません。風が吹いても動かないような頑丈な三脚が理想ですが、以下のポイントを参考に選びましょう:
耐荷重:カメラとレンズの重さをしっかり支えられるかどうか確認しましょう。星景写真撮影の場合、耐荷重5kg以上のものが望ましいです。ポータブル赤道儀を使用する場合は、耐荷重8kg以上のものが安心でしょう。
アルカスイス規格の雲台プレート:アルカスイス規格のプレートとクランプがあれば、カメラと雲台をワンタッチで取り外しできるので重宝します。
4. 双眼鏡の活用
星空撮影中は、双眼鏡で星空を観察するのがおすすめです。双眼鏡は広い視野で星空を観察できるため、構図や天体の確認にも役立ちます。倍率は7倍から10倍程度、対物レンズの口径が30mm~40mm程度のものを選ぶと、手持ちでも使いやすいです。
5. 天体望遠鏡の選び方
初めての天体撮影には口径6cm程度の屈折式望遠鏡が向いています。観望だけなら安価なモデルでも問題ありませんが、天体撮影では色収差が目立つので、EDレンズやフローライトレンズが使われた機種がお勧めです。良い望遠鏡は、10年程度は使えるので、長く使える気に入ったモデルを購入するのがお勧めです。ビクセンFL55SSなどの小型で高性能な機種が使いやすいでしょう。
6. スマート機材の勧め
ZWOの「Seestar」をはじめ、スマート望遠鏡という新しい分野の撮影機材が登場しています。Seestarはスマートフォンと連携し、誰でも簡単に天体撮影を楽しめるのが特長です。星空全体の撮影には向いていませんが、特定の天体を大きく簡単に撮影したい場合には最適な機材です。
星空シミュレーションソフトの紹介
天体撮影では、撮影対象となる天体や天の川の位置を事前に確認しておくと、撮影がスムーズに進みます。そのために便利なのが「星空シミュレーションソフト」です。これらのアプリやソフトは、スマートフォンやPCで夜空の様子をシミュレーションでき、撮影の天体の位置や動きを把握するのに役立ちます。ここでは、初心者にもおすすめのアプリやソフトを紹介し、それらの活用方法を解説します。
1. スマホアプリ
スマートフォン用の星空シミュレーションアプリは、持ち運びが簡単で、撮影現場での確認にも便利です。以下のアプリが特におすすめです。
SkySafari:星座や天体の情報が豊富で、詳細なシミュレーションが可能なアプリです。高度や方角も正確に表示され、撮影計画を立てやすくなります。また、未来の日付や時間を入力すると、その日時の星空もシミュレーションできるため、撮影日程を決める際にも便利です。
Star Walk 2:直感的な操作で星空をリアルタイムに観察できるアプリです。スマホをかざすと、現在の方角や星の名前が画面上に表示されるため、撮影したい天体をすぐに見つけることができます。
2. PC用ソフト
PCで使用できるシミュレーションソフトは、パソコンの画面上で細かい操作が可能で、事前のプランニングに役立ちます。特におすすめのソフトは以下の通りです。
Stellarium:無料で使用でき、初心者から上級者まで幅広く愛用されている星空シミュレーションソフトです。シンプルでわかりやすいインターフェースが特徴で、観測地と日時を設定するだけで、画面にリアルな夜空が表示されます。星や星座、惑星の位置が一目で確認できます。また、望遠鏡やカメラの視野をシミュレーションする機能もあり、機材に合わせた撮影計画が立てやすいです。
ステラナビゲーター12:ステラナビゲーターは、アストロアーツ社が開発している日本製の高機能星空シミュレーションソフトです。観測地や日時を細かく設定できるだけでなく、各種天体の位置情報や詳しい解説も豊富で、望遠鏡の視野や構図を表示する機能もあります。完全に日本語対応で、初心者には特に使いやすい天体シミュレーションソフトです。
まとめ
天体撮影を楽しむためには、撮影対象や条件に合わせた事前準備が欠かせません。月齢や天候、光害を考慮して撮影の計画を立て、シミュレーションソフトを活用することで、より確実に星空や天体を捉えることができます。風景撮影用の機材でも星空を撮影することができますので、まずは手持ちのカメラやスマホで気軽に始めてみるのがおすすめです。少しずつ経験を積み、撮影機材を増やしていくことで、星空撮影が一層楽しく魅力的に感じられると思います。ぜひ、天体撮影を末永く楽しんでください。
リンク集
天体撮影に便利なアプリを提供しているメーカーの公式サイトへのリンク集です。
天気予報関係
光害マップ
月齢カレンダー
星空シミュレーションアプリ
星空シミュレーションソフト(PC用)
レビュー著者
吉田 隆行氏 ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。