朗報!ASIAIRがビクセンWLに対応しました

ビクセン ワイヤレスユニットとASIAIRの概要と使い方

2024年3月15日、ASIAIRアプリのVer2.1.2が公開され、ASIAIRがビクセンのワイヤレスユニットに正式対応しました。早速、アップデートされたASIAIRとワイヤレスユニットを使って、天体撮影を行ってみましたので、接続方法をご紹介しながら使用感をお伝えします。



ワイヤレスユニットとASIAIRについて

実際の操作に入る前に、ワイヤレスユニットとASIAIRについて簡単にご説明します。

ワイヤレスユニットは、天体望遠鏡メーカーの株式会社ビクセンが開発した、同社赤道儀用のコントローラーユニットです。

赤道儀にワイヤレスユニット(上画像左)を取り付け、スマートフォンやタブレットにスマホアプリ「STARBOOK Wireless(以下「ワイヤレスアプリ」)」をインストールすると、Wifiを使って遠隔で赤道儀を操作することができます。

ASIAIRは、天体撮影用CMOSカメラメーカーのZWO社が開発したスマートWi-Fiデバイスです。同社のカメラやフォーカサー、赤道儀にASIAIR Plus(以下:ASIAIR本体)を接続すると、スマホアプリのASIAIRアプリから、遠隔で接続した機器を操作し、天体撮影や電視観望を行うことができます。

ASIAIRアプリが対応するのは、基本的にZWO社の製品だけですが、赤道儀やカメラに関しては他社製の機材にも対応しており、今回、新たにビクセンのワイヤレスユニットに対応したというわけです。



ワイヤレスユニットとASIAIRの接続方法

ワイヤレスユニットは、従来の同社のコントローラー「STARBOOK TEN」と異なり、Wifiで接続する必要があるため、ASIAIRアプリの架台の一覧からワイヤレスユニットを選択しただけではつながりません。ASIAIRアプリのステーションモードで接続する必要があります。以下、接続方法を、順を追って説明します。

まず、ASIAIRアプリの最新バージョンをアプリストアからダウンロードし、スマートフォンやタブレットにインストールしてください。

ASIAIR本体の電源を入れ、スマホ等の設定画面を開いてASIAIR本体とWifi接続します。その後、ASIAIRアプリを立ち上げると、ファームウェアアップデートが始まりますので、電源を切らずに、しばらく待ちましょう。

アップデート後、ASIAIRアプリを起動すると、架台の一覧にVixen Wireless Unitが追加されているので、それを選択します。

次に、ステーションモードを設定します。ASIAIRアプリ内の電波マーク(ネットワークアイコン)をタップして、ネットワーク設定画面を開きましょう。設定画面が表示されたら、Wi-Fi を選択してください。初期状態では、ステーションモードはオフになっているので、タップしてオンにします。

ステーションモードがオンになると、ASIAIRは接続可能なWiFiネットワークを探しはじめます。しばらく待つと、接続可能なネットワークの中にWireless Unitが表示されるので、それを選択してください。

パスワード入力画面が表示されるので、ワイヤレスユニットのパスワードを入力します。接続に成功すると、接続されたネットワークのSSIDが上の欄に表示され、緑色のチェックマークが入ります。

マウントの一覧でVixen Wireless Unitが選択されているのを確認し、接続ボタンをタップすると、ASIAIRと赤道儀の接続が確立し、下に赤道儀のパラメーターや設定項目が表示されます。



ケーブルレスで快適

ASIAIRとワイヤレスユニットの接続が確立できれば、ケーブル接続の赤道儀と同じように、赤道儀をASIAIRアプリ上で操作することができます。

従来のビクセンSTARBOOK TENコントローラーに比べると、LANケーブルをASIAIR本体に接続する必要がなくなったので、赤道儀周りがすっきりします。子午線を跨いで自動導入するときも、ケーブルが絡まる心配が少なくなり、とても快適に感じました。

赤道儀に天体望遠鏡を載せ、ASIAIRとワイヤレスユニットを使って、数時間、天体撮影を行いましたが、接続は安定していました。ASIAIRアプリを入れたタブレットは、赤道儀から約5m離れた場所に置いていましたが、撮影中、電波が途切れることはありませんでした。



オートガイドについて

ワイヤレスユニットには、SBIG社製オートガイダーに準拠したオートガイド端子が設けられています。

ワイヤレスユニットを使って天体撮影を行う場合、オートガイダーのケーブルをこの端子に接続してオートガイドしていたと思いますが、ASIAIRを使用すると、ASIAIRからWifiを通じて赤道儀に修正信号を送るので、ケーブル接続は不要になります。

実際にオートガイド撮影を行ってみましたが、キャリブレーションからオートガイド開始までスムーズに移行し、撮影中のガイドグラフも上記の通り、安定していました。



STARBOOK WirelessからASIAIRアプリへ

ASIAIRがワイヤレスユニットに対応していなかった時は、ASIAIRアプリを入れたタブレットでZWO社CMOSカメラを制御しつつ、天体を導入するときはワイヤレスアプリを入れたスマホを操作する必要があり、2台のモバイル機器を使わなければいけない点を面倒に感じていました。

そこで、一時はASIAIRを使わず、ワイヤレスユニット用のASCOMドライバーをインストールし、パソコンからCMOSカメラと赤道儀を制御していましたが、遠征先でもパソコンが必要になるのが難点でした。

今回、ASIAIRがワイヤレスユニットに対応したことで、ASIAIRからカメラと赤道儀を制御できるようになり、パソコンや2台のモバイル機器を使い分ける必要がなくなりました。1つのアプリで天体撮影や電視観望を楽しめるようになったのは、大きな進展でしょう。

また、ASIAIRアプリでは、自動導入後にプレートソルビング機能が実行されるので、自動導入の精度も高まります。ワイヤレスアプリで自動導入を行っていた時に比べ、スムーズに撮影に移ることができるようになりました。

CMOSカメラを使用しない天体観望の用途では、ワイヤレスアプリの方が手軽に感じますが、天体撮影や電視観望では、ASIAIRを使う方がストレスも減り、気軽に撮影を楽しめるでしょう。これまでASIAIRを使わず、ワイヤレスユニットで天体撮影を楽しんでいた方にも、ASIAIRを導入するメリットは大きいと思います。



まとめ -ケーブルレスで快適に-

ワイヤレスユニットが発売開始されて以降、ASIAIRの対応を待ち望んだ人は多かったと思います。今回、ようやく正式対応となり、私自身も喜んでいるところです。

実際にこの組み合わせで天体撮影を行ってみたところ、ケーブルレスで赤道儀を使えるのは本当に快適でした。正直なところ、LANケーブルを接続しなければならないSTARBOOK TENにはもう戻れないと感じています。

ワイヤレスユニットとASIAIRの組み合わせは、天体撮影や電視観望を大変便利にしてくれるでしょう。STARBOOK TENユーザーの方も、是非、ワイヤレスユニットとASIAIRを試していただき、ワイヤレスで天体撮影や電子観望を楽しんでみてはいかがでしょうか。


レビュー著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。

ハイランダープロミナーとAM3でプレートソルビング自動導入観望を楽しもう!

ハイランダープロミナーとAM3でプレートソルビング自動導入観望を楽しもう!

ハイランダープロミナーとAM3でプレートソルビング自動導入観望を楽しもう!

コーワ ハイランダープロミナー(以下「ハイランダー」)は、スポッティングスコープや双眼鏡で有名な興和オプトロニクス株式会社が製造・販売している大口径の双眼望遠鏡です。生産開始されて20年以上が経ちますが、今でも第一級の性能を持った大口径双眼鏡として人気があります。

今回は、ハイランダーにK-Astec製の保持金具3点セットHLM-3Pを取り付け、AM3赤道儀に載せて天体観望を行いました。ハイランダーの見え味と共に、保持金具の使い勝手についてもご紹介します。



ハイランダー
プロミナー

ZWO
AM3

K-ASTEC
HLM-3P

ASKAR
32mmF4

ZWO
ASI715MC

ZWO
ASI AIR Mini


ハイランダーの概要

ハイランダーの対物レンズの口径は82mmで、星空観察によく使用される口径50mmの双眼鏡と比べて二回り以上大きく、集光力は約2.7倍もあります。双眼鏡本体も大きく、重量は約6kgもあるので、三脚や赤道儀などに固定して観望する必要があります。

対物レンズには、フローライト・クリスタルレンズが採用されています。双眼鏡も大口径になると、色収差などが発生して星像がにじみやすくなりますが、ハイランダーは、フローライトレンズを用いることで、諸収差を良好に補正しています。

接眼部は、45度傾斜しています。ストレートタイプの双眼鏡を星空に向けると、かがみこんで覗きこまないといけませんが、ハイランダーは傾斜型なので楽な姿勢で覗くことができます。また、ピント合わせの方式はIF方式が採用されていて、片眼ずつピントを合わせます。

接眼アイピースは交換式で、標準で32倍ワイドアイピースが付属します。その他、21倍ワイドアイピースと50倍アイピースがオプションで用意されており、様々な対象を楽しめる仕様になっています。

ボディはアルミダイキャスト製で堅牢に作られており、ボディ内部には乾燥窒素ガスが充填されています。防水構造なので、夜露の落ちる夜間でも安心して使用することができます。



ハイランダーの見え味

ハイランダーは天文ファンからの評価が高い大型双眼鏡で、私も何度か覗いてその星像のシャープさに驚いた覚えがあります。今回、改めて星空観望にじっくり使わせていただき、その結像性能の高さを再認識しました。

私は、他社製の口径10センチの3枚玉アポクロマート対空双眼鏡を所有し、星空観望に使用していますが、ハイランダーの星像はそれに比べても鋭く、合焦位置も明瞭で、星が小さく収束します。結像性能が高いため、口径が約2センチ小さいにもかかわらず、解像感はハイランダーの方が優れており、オリオン大星雲のトラペジウムもよく分解しました。


また、同口径の天体望遠鏡と比べても、ハイランダーの方がよく見えると感じました。実際、おおぐま座のM81とM82銀河を口径81㎜のSDアポクロマート屈折望遠鏡で見たときよりも、ハイランダーで覗いた方が銀河のコントラストが良く、背景宇宙から銀河が浮き立って見えました。

見頃を迎えていた、ポンス・ブルックス彗星(12P)もハイランダーで観望することができました。口径4センチ程度の双眼鏡では、彗星の存在がわかる程度でしたが、ハイランダーを使用すると、彗星の核から延びる尾が薄っすらと見えました。観望地でご一緒した星仲間にもハイランダーの見え味は好評で、「大型ドブソニアンよりも彗星の尾がよく見える」と驚いていました。



K-Astec製 保持金具3点セットHLM-3P

HLM-3Pは、ハイランダーを自動導入経緯台などに搭載するための保持金具です。3つの金具が付属していますが、そのうちの2つを同時に使い、アングルモードとストレートモードのどちらかを選んでハイランダーに取り付けます。

今回はAM3赤道儀の経緯台モードを使用するため、アングルモード用の金具2つを使用しました。なお、HLM-3Pに付属するアリガタプレートは3インチ仕様なので、アリミゾ金具の仕様が合えば、AM3以外の赤道儀にも取り付けることができます。

HLM-3Pは、ハイランダーの底部に設けられたカメラネジを介して固定します。ネジ1本での固定は不安に感じましたが、ハイランダー専用設計で作られているためか、ネジ1本でもしっかりと固定でき、緩むことはありませんでした。金具自体の強度も高く、双眼鏡をどの方向に向けてもガタつくこともありませんでした。



AM3赤道儀に載せての観望は快適

ハイランダーをAM3赤道儀に載せて、経緯台モードで星空観望を楽しみました。

経緯台モードの設定方法は、「AM赤道儀の経緯台モードの設定ページ」をご覧いただければと思いますが、一点注意が必要なのは、HLM-3Pをアングルモードで取り付けると、双眼鏡が向く方向が通常とは90度が変わってしまうことです。そのため、事前にAM3赤道儀のアリミゾ金具を一旦外し、90度回して取り付けなおしておきましょう。

また、経緯台モードでは左右のバランスが崩れやすいので、AM赤道儀にバランスシャフトを取り付け、バランスウェイトを載せて安定させましょう。

AM3赤道儀の付属のジョイスティックコントローラーを使って、ハイランダーで天体観望をしたところ、実に快適に天体観望を楽しむことができました。AM3の力強いモーターで、双眼鏡をあっという間に望む方向に向けることができました。

また、ジョイスティックの速度を変更すれば、双眼鏡を覗きながら徐々に視野を動かすこともでき、今まで手動で行っていた時よりも、正確かつスムーズに動かすことができます。これはそれまで経験したことのない感覚で、これだけのためにでも保持金具を使う価値はあると感じました。



プレートソルビングで自動導入

ジョイスティックを使っての天体観望も楽しいですが、位置がわからない暗い天体を探す際は自動導入機能を使うと便利です。AM3赤道儀なら、ASIAIRのプレートソルビング機能を使用すれば、ほぼ完璧に目標天体を導入することができます。

ASIAIRを使うため、HLM-3P金具に開いているネジ穴を利用し、ZWO製のファインダー・シューを介してAskar製の32mm F4ガイドスコープを取り付けました。カメラはZWOのASI715MCを使用しています。

プロミナーとガイドスコープの光軸を合わせた後、タブレットにインストールしたASIAIRアプリから自動導入を実行すると、双眼鏡が目標天体に向かって動き出します。

目的の方向に向いて赤道儀のモーターが止まると、ASI715MCが撮影を開始し、プレートソルビングが行われます。星図との同定が終わり、赤道儀の微動が終了すると、双眼鏡の視野内に入力した天体が導入されていました。

プレートソルビングを使用すると、これまで手動では導入できなかった天体も簡単に視野内に入れることができ、プロミナーで観望を楽しむことができます。是非、プロミナーの性能を最大限発揮できるプレートソルビングも体験してみてください。



まとめ -新感覚の楽しさ-

ハイランダーとAM3赤道儀の組み合わせは、大型双眼鏡での天体観望をとても快適にしてくれました。操作感も良好で、ジョイスティックで赤道儀を自在に動かしていくのは、新しい体験とも呼べるものでした。

20年以上天文ファンに支持されているハイランダーの光学性能はやはり伊達ではなく、色収差の感じられないシャープな像と広い視界は、宇宙への没入感を得られます。星雲星団から彗星の観望まで、幅広い対象を高度に楽しめる双眼鏡でしょう。

ハイランダーは、光学性能を追求した結果、8センチクラスの双眼鏡としては高価ですが、価格に見合う高性能な双眼鏡と言えます。長く使用できる本格的な大型双眼鏡を探している方には、是非お勧めしたい双眼鏡です。




レビュー著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。

ポンス・ブルックス彗星を観察しよう



ポンス・ブルックス彗星を観察しよう

ポンス・ブルックス彗星を観察しよう

ポンス・ブルックス彗星(12P /Pons-Brooks)は、約70年で太陽を一周する周期彗星です。2024年4月20日に近日点(太陽に最も近づく時)を迎え、2024年6月2日から3日にかけて地球に近づく予定です。日本から条件良く観察できるのは、3月下旬から4月上旬にかけての時期です。是非、70年振りに見頃を迎える、ポンス・ブルックス彗星を観察してみましょう。



ポンス・ブルックス彗星とは

ポンス・ブルックス彗星は、1812年にフランスの天文学者ポン(ス)によって発見されました。その後、1883年にアメリカの天文学者ブルックスによって再発見され、ポン(ス)が発見した彗星と同一であることが確認されて、2人の名前を冠した周期彗星として登録されました。

ポンス・ブルックス彗星は、約70年をかけて太陽を一周しますが、その公転軌道は、黄道(天球上における太陽の見かけ上の通り道)に対して約74度も傾いており、地球や他の惑星の軌道をほぼ縦に横切るように回っています。



彗星の見える方向は

3月中旬から4月にかけて、ポンス・ブルックス彗星は、日没後の西北西の空に見ることができます。天文薄明終了時(19時半頃)の彗星の高度は、3月15日で約15度です。

その後、彗星は徐々に高度を下げ、3月下旬~4月上旬の高度は10~15度になります。4月中旬以降は10度以下とさらに高度が低くなり、近日点を通過した後は北半球からは見えなくなってしまいます。

上図のようにポンス・ブルックス彗星の高度はかなり低くなるため、西~西北西の方向に障害物がなく、低空までよく見渡せる場所で観察・撮影することをお勧めします。



彗星の明るさは

ポンス・ブルックス彗星が最も明るく見えるのは、彗星が最も太陽に近づく4月21日前後で、明るさは4等級前後と予想されています。しかし、この時期は彗星と太陽の距離が近すぎるため、太陽の光に隠されて彗星を観測することはできません。

ポンス・ブルックス彗星を日本から条件良く観測できるのは、3月下旬から4月上旬にかけてです。その頃には、4~5等級まで明るくなると予想されています。3月25日は満月で夜空が明るいですが、その2~3日後には、彗星の観察時間には月がまだ昇ってこないため、月の影響を受けずに観測することができるようになります。

4月9日が新月ですので、3月下旬から4月上旬にかけてが、ポンス・ブルックス彗星を観測・撮影するのに最も条件の良い時期と言えるでしょう。是非この時期に狙いを定めてポン・ブルックス彗星を観察・撮影してみてください。



双眼鏡を準備しよう

街灯がなく夜空が暗くて星空が綺麗な場所なら、肉眼で6等級の星まで見ることができると言われています。しかし、彗星は恒星と異なり、淡く広がっているため、4等級の明るさがあっても肉眼で見えるかどうかはギリギリのところです。

それに加え、ポンス・ブルックス彗星は太陽に近く、天文薄明中の低空で輝くため、肉眼で見つけるのはかなり難しく、双眼鏡を使用して観察することをお勧めします。

天体望遠鏡で観察することも可能ですが、彗星の観察には、準備の手間がかからず機動力の高い双眼鏡の方が適しています。また、天体望遠鏡と同じく、双眼鏡も口径が大きいほど暗い星まで見えますが、口径が大きいと大きく重くなるため、手持ちの場合は口径4センチ程度の双眼鏡が扱いやすいでしょう。

倍率は10倍前後、見かけ視界が広いタイプの双眼鏡が彗星の観察に使いやすいでしょう。双眼鏡は、彗星だけではなく、星雲や星団の観望にも使えますので、この機会に1つ性能の良い双眼鏡を用意しておくと今後の星空観望にも使えて便利でしょう。



ポンス・ブルックス彗星を撮影してみよう

デジタル一眼レフカメラや天体用CMOSカメラをお持ちなら、ポンス・ブルックス彗星の撮影にもチャレンジしてみてはいかがでしょう。使用する光学系は、焦点距離が短めの屈折望遠鏡や、200ミリ前後のカメラレンズが使いやすいでしょう。望遠鏡とカメラを載せる架台は、設置撤収が素早く行えるポータブル赤道儀や小型赤道儀がお勧めです。

撮影の注意点として、ポンス・ブルックス彗星はすぐに西空に沈んでしまうため、早めに撮影場所に着いて、日没前にセッティングを終えておくことが大切です。また、北極星の位置も前もって確認し、天文薄明が終了したらすぐに撮影に移れるように準備しておきましょう。

彗星は恒星の間を動いていきますが、幸い3月から4月にかけてのポンス・ブルックス彗星は、地球からまだ遠い位置にあるため、移動スピード(固有運動量)は速くありません。200ミリ前後のレンズでも、露光時間に数分かけて、じっくり撮影することができます。



70年ぶりの彗星

周期彗星と言えば、約76年周期で回帰するハレー彗星が有名で、1984年に回帰した時は多くの天文ファンが観望・撮影に盛り上がりました。ポンス・ブルックス彗星が前回回帰したのは、1954年です。1954年と言えば、日本ではちょうど高度経済成長に突入しようという時期で、まだデジタルカメラは存在しておらず、観測精度も現在とは大きな差がありました。

今回の回帰は、初めてデジタルカメラでポンス・ブルックス彗星の姿を捉えることができるチャンスです。この機会を逃すと次の回帰は2095年ですので、今回の回帰がポンス・ブルックス彗星を観察・撮影できるラストチャンスという方がほとんどでしょう。

今秋には、紫金山・アトラス彗星も地球に近づき、明るくなると予想されています。ポンス・ブルックス彗星を観測・撮影しながら、秋の紫金山・アトラス彗星に備えるのも楽しいですね。



著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。

AM3、AM5赤道儀の経緯台モードで天体観望を楽しもう

AM3、AM5赤道儀の経緯台モードで天体観望を楽しもう

軽量コンパクトで人気の高いZWO社のAM3・AM5赤道儀には、経緯台モードが搭載されています。ASIAIRと経緯台モードを使用すれば、プレートソルビング機能を使って、天体観望を今まで以上に手軽に楽しむことができます。

本ページでは、次世代の天体観望方法ともいえるAMシリーズの経緯台モードで天体観望を楽しむ方法をご紹介します。まず最初に、経緯台モードと設定方法について説明します。




Vixen SD81SII鏡筒

ZWO AM3

ASKAR 32mmF4

ZWO ASI715MC

ZWO ASI AIR Mini


【モード設定編】

赤道儀と経緯台の違い

赤道儀は、天体撮影に使用される架台です。回転軸の一つ(赤経軸)を地球の回転軸に合わせるため、日本では赤経軸が約35度傾いています。そのため、初心者の方は動く方向をイメージしにくく、慣れるまで少し時間がかかります。

一方、経緯台は上下方向と水平方向に動きます。カメラ三脚と同じ動きなので、直感的に操作することができ、極軸合わせも不要なため、初めての方でも簡単に天体望遠鏡を希望の方向に向けることができます。また、望遠鏡の接眼部も覗きやすく、天体観望用として愛用されています。



天体観望時は経緯台が便利

赤道儀を使って天体観望を楽しむことも可能ですが、東の天体から西の天体へと子午線を跨いで天体望遠鏡を動かすと、望遠鏡が反転してしまいます。また、望遠鏡を向ける方角によっては接眼部の向きが変わり、アイピースの向きも調整しなければならず、面倒に感じるでしょう。

一方、経緯台を使って観望する場合は、天体望遠鏡は左右と上下にだけ動くため、覗く位置は架台を中心にして回るだけで、望遠鏡の接眼レンズを覗きやすいです。椅子に座りながら観望しやすく、快適に天体観望を楽しむことができます。



AM赤道儀を経緯台として使用するメリット

AM赤道儀とASIAIRとCMOSカメラをセットすれば、自動導入可能な経緯台として使用することができます。プレートソルビング機能も使えるので、視野中心部に希望する天体を確実に導入することができます。

また、観望中の天体をファインダーで捉えてタブレットやスマホの画面で確認することもできます。ファインダーで撮影した画像がモニター画面に表示されるので、天体望遠鏡の実像と見比べるのも楽しいでしょう。

また、AM赤道儀は、元々、撮影用の機材を載せるために設計されているため強度が高く、重い機材を載せることもできます。天体観望ファンにとって強度の高い経緯台は待ち望むものですが、現在市販されている経緯台は強度不足のものが多く、大半は口径8センチ程度までの屈折望遠鏡用です。また操作も手動になります。
その点、AM赤道儀は重い鏡筒も搭載することができ、モーターで目標天体を自動導入してくれます。これらの点を考慮すれば、天体観望用としてもAMシリーズの魅力は高くなるでしょう。



AM赤道儀の経緯台モード

AM赤道儀は、初期状態では赤道儀モードで動くようになっていますので、まず、経緯台モードに設定変更しましょう。以下、AM3赤道儀とASAIR mini、ASI715MCカメラと、Askar 32mm F4 ガイドスコープを使用し、手順を説明します。



赤道儀の極軸体を起こす

まず赤道儀の極軸体を起こして垂直にします。赤道儀横のスリットから見える六角ネジを軽く緩め、極軸体が動くようにしましょう(下図の矢印参照)。また、クランプレバーも少し緩めておきます。

次に、極軸体を南方向にゆっくりと起こします。この時、極軸合わせに使用する上下調整微動ハンドルを、押す方向に回しましょう。極軸体を垂直にしたら、両サイドのクランプレバーを締め、固定しましょう。

なお、経緯台モードは、片側に天体望遠鏡を載せるのでバランスを崩しやすくなります。赤道儀にバランスウェイトシャフトを取り付け、バランスウェイトを付けて安定させることを強くお勧めします。



コントローラーのキャンセルボタン

極軸体を垂直にできたら、赤道儀に電源ケーブルとハンドコントローラーを繋ぎ、ハンドコントローラーのキャンセルボタン(回転マークのボタン)を押しながら、赤道儀の電源ボタンを押します。

しばらくするとビープ音が鳴るので、キャンセルボタンから指を離しましょう。これで、赤道儀の動作モードが赤道儀モードから経緯台モードに変更されました。



経緯台モードの確認

経緯台モードに変更されたかどうかは、ホームポジションの位置で確認することができます。ハンドコントローラーのキャンセルボタンを長押しすると、天体望遠鏡をホームポジションに向けることができますので、ボタンを長押ししてみましょう。

赤道儀が止まり、天体望遠鏡が上や下方向を向いていたら、赤道儀モードのままです。上図のように地面と鏡筒が平行になれば、経緯台モードに切り替わっています。実際の観望に入る前に確認してください。



ASIAIRの取り付けとカメラの接続

経緯台モードへの変更が確認できたら、ASIAIRを取り付けます。経緯台モードでは、水平と垂直方向に架台が回転するので、赤道儀に近い位置に取り付けるのが便利でしょう。

上写真では、赤道儀の架頭部分にASIAIRPRO用アリミゾを取り付け、アリミゾにASIAIR miniを取り付けています。



カメラとガイドスコープ

プレートソルビング機能を使って自動導入補正を行うため、天体望遠鏡のファインダー台座部分に、ガイドスコープを取り付けます。

ガイドスコープの接眼部には、ASI715MCカメラを差し込み、ASIAIR miniとUSBケーブルで接続します。天体観望を行う前にガイドスコープと天体望遠鏡の軸を合わせておくと、スムーズに天体観望に移ることができます。



経緯台モードのセットアップ完了

下の写真は、赤道儀一式のセットアップが完了した様子です。三脚にタブレットホルダーを取り付けてタブレットを固定し、観望しながら操作できるように工夫しました。

実践編では、機材の電源を入れて、実際に操作する様子をご紹介したいと思います。



補足:電源やUSBケーブルについて

経緯台モードでは、目標天体を入力すると赤道儀の水平・垂直軸が高速で回転し、最短距離で自動導入を行います。そのため、様々な天体を観望すると、水平方向に何度も回ることになり、ケーブルが架台に巻き付いていく恐れがあります。
実際、DC電源ケーブルが途中で抜けて、止まってしまったことがありました。モーターの力が強いので、ケーブルが無理に引っ張られると断線する恐れもあります。す。長さに余裕のあるケーブルを使用することをお勧めします。




【実践編】

設定編に続き、AM3・AM5赤道儀の経緯台モードを使って天体観望を楽しむ実践編です。実際に天体を導入し、天体観望を楽しむ方法やコツをご紹介します。今回も、ZWO社のAM3赤道儀、ASIAIR mini、ASI715MCカメラと、Askar社の32mm F4 ガイドスコープを使用しました。



AM赤道儀の電源を入れる

コントローラーのキャンセルボタンを押しながらAM3赤道儀の電源ボタンを押して、電源を入れましょう。キャンセルボタンを押さずに電源ボタンを押すと、赤道儀モードで起動するので、注意してください。



ASIAIR miniの電源を入れる

赤道儀とCMOSカメラをUSBケーブルでASIAIR miniに繋ぎ、DCケーブルを繋いで電源を入れましょう。電源を入れてしばらくすると、ASIAIR miniから「ピー」という音が鳴ります。

音が聞こえたら、タブレットまたはスマートフォンのWifi設定画面を開き、ASIAIR miniを接続します。初期パスワードは、ASIAIR miniのマニュアルに記載されています。

Wifiを接続できたら、ASIAIRアプリを立ち上げます。架台の一覧からAM3を選ぶと、下のようなダイアログボックスが画面に表示されます。

ダイアログボックスには「経緯台モード(Altazimuth Mode)」と表示されています。もし、この画面が表示されない場合は、AM3が赤道儀モードで立ち上がっている可能性があります。一度、赤道儀の電源を切り、設定方法のページをご参照の上、電源を入れ直してください。



CMOSカメラを接続する

ASIAIRアプリのメインカメラのタグを選び、CMOSカメラを接続します。カメラのゲインは、最も感度の高い「High」に合わせておきましょう。

CMOSカメラを取り付けている望遠鏡の焦点距離を入力します。Askarのガイドスコープの焦点距離は128ミリですので、「128」と入力しました。焦点距離が大きくずれると、プレートソルビングに失敗するので、正確に入力しましょう。



ガイドスコープのピント合わせ

CMOSカメラを接続できたら、CMOSカメラを取り付けているガイドスコープのピントを合わせます。既にピントが合っている場合は、この手順を省いてください。

まず、ASIAIRアプリの動作モードをPreview、ビニング4に合わせます。次に、ASIAIRアプリ画面に表示されている赤道儀の操作ボタン(矢印ボタン)を押して、水平になっている天体望遠鏡を観望したい星空の方向に向けます。撮影開始ボタンを押して、CMOSカメラが捉えている星を画面に映し出しましょう。

撮影開始ボタンを押しても、画面が真っ黒で星が全く映し出されない場合は、ピントが大きくずれしまっている可能性が考えられます。ガイドスコープのリングを大きく回し、星がぼんやりと映し出されるまで動かしてみましょう。星の輪郭が画面に表れ、おおよそピントが合ってきたら、動作モードを「Focus」に切り替えて、ピントを追い込みましょう。

今回使用したAskarのガイドスコープの場合、フォーカスリングを5mmほど繰り出したところでピントが合いました。なお、ガイドスコープのピントを合わせる前に自動導入を始めると、プレートソルビング時に星が見つからず、天体の導入に失敗してしまいます。必ずピントを合わせてから自動導入を行いましょう。



望遠鏡とガイドスコープの光軸

天体望遠鏡とガイドスコープの光軸は、事前に地上風景を見ながら合わせておきましょう。Askarのガイドスコープの場合、接眼部にCMOSカメラの代わりにアイピースを挿入すれば、肉眼でも見える像を確認できるので、簡単に合わせることができます。

天体観望を行う時に光軸を合わせることも可能ですが、経緯台モードでは視野内で星が徐々に動いてしまうため、調整が難しく、時間もかかってしまいます。



自動導入を開始

いよいよ自動導入です。ASIAIRアプリの動作モードをPreviewにし、検索ボックスに観望したい天体のナンバーを入力します。天体のナンバーがわからない場合は、右上ボタンを押してTonight’s Bestを選ぶとASIAIRアプリが推奨する天体の一覧が表示されますので、目的の天体を選んでください。

天体を選択して「GoTo」ボタンを押すと、AM3赤道儀が動き始めます。水平方向と垂直方向に高速回転しますが、最初の導入時はアライメントが取れていないため、特に大きく動きます。電源ケーブルやUSBケーブルが機材に巻きついたりしないか、注意して見守りましょう。



プレートソルビング

天体望遠鏡がほぼ目標天体の方向に向くと、CMOSカメラが自動的に星々を撮影し、撮影した画像を用いて、ASIAIRが望遠鏡の向いている方向を解析します。

解析が終了し、望遠鏡が向いている方向の座標が得られると、再び赤道儀が動き始め、目標天体を目指して調整します。さらに1~3回ほど解析が行われ、「Completed」と表示されたら、完了です。天体望遠鏡の視野中心に、目標天体が導入されているでしょう。



望遠鏡で見てみよう

早速、天体望遠鏡を覗いて天体を観望してみましょう。天体にもよりますが、最初は50倍程度の低倍率で見てみましょう。

私が初めて経緯台モードで観望したのは、オリオン大星雲(M42)です。プレートソルビングが完了して望遠鏡を覗くと、見事にM42が視野中央に導入されていて、感動しました。

その後、おおぐま座のM81銀河を導入したところ、AM3赤道儀は南から一気に北方向へ回転し、中心部にM81銀河を捉えました。望遠鏡のアイピースを覗くと、中心部にM81銀河が見え、その斜め上にM82銀河が見えました。二つの銀河は「ハ」の字に並んでいて、しばらく見入ってしまいました。



CMOSカメラの画像も見てみよう

ご自身の目で天体を観望した後は、CMOSカメラが捉えた画像も確認してみましょう。プレートソルビングの解析時にも撮影されているので、既に画像は表示されていると思いますが、改めてPreviewモードの撮影ボタンを押すと、今撮影した画像が表示されます。

画像が暗い場合は、露光時間を延ばせば明るく映し出されます。CMOSカメラの画像で天体の形を確認した後、再び望遠鏡を覗くと、また違った印象を受けるかもしれません。是非何度も見比べてみてください。



倍率も変更してみよう

M42をはじめとする星雲に比べ、春の銀河や惑星状星雲は小さいので、接眼レンズを交換し、倍率を変えて観望してみましょう。倍率を変えると、背景の明るさや星雲の見え方も変わり、興味は尽きません。

また、接眼レンズは様々な種類が販売されていますので、覗き比べるのも楽しいでしょう。同じ倍率でも視界が広かったり狭かったり、見える星の像がシャープだったりぽってりしていたりと様々です。いろいろ見比べて、天体望遠鏡の性能を発揮できる接眼レンズを探しましょう。



様々な天体を導入してみよう

自動導入機能とプレートソルビングを使って、様々な天体を自動導入してみましょう。AM赤道儀とASIAIRを使えば、プレートソルビング機能を活用できるので、ほぼ100%の確率で視野内に導入可能です。

手動では導入が難しいNGC天体や暗い天体も、簡単に導入することができます。さらに鮮明な画像をタブレットやスマホ画面に映したい場合は、口径の大きなガイドスコープを使用すれば、写真の解像度が増します。ユーザーの好みや目的に合わせて様々に楽しめる、天体観望の新しい形ではないでしょうか。



補足:CMOSカメラのフィルターについて

本記事では、ガイドスコープにASI715MCカメラを直接挿入しましたが、ASI715MCカメラは赤外光も通すため、ガイドスコープの収差が強調されて、星像がぽってり映ります。シャープな星像を得たい場合は、カメラに赤外線カットフィルター(IRカットフィルター)を取り付けるとよいでしょう。



レビュー著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。

極軸合わせの方法

極軸合わせの方法

赤道儀を使う際は、極軸合わせという作業が必要です。極軸合わせの方法としては、極軸望遠鏡を使って合わせる方法がよく知られていますが、その他にも昔から様々な方法が考え出されています。その中から広く知られたメジャーな方法を幾つかご紹介します。



極軸合わせとは

星は、毎日、東から昇って西に沈みます。これは地球が自転しているために起こる現象で、日周運動と呼ばれています。日周運動の中心は北極星の方向にあり、星はあたかも北極星を中心に回転しているように見えます。



赤道儀には、日周運動と同じように動く回転軸(赤経軸)があり、この回転軸の中心と日周運動の軸を平行に合わせることによって、星を正確に追いかけることができます。この2つの軸を平行に合わせることを「極軸合わせ」と呼んでいます。

なお、北極星は、ほぼ真北に見えますが、正確には天の北極から僅かにずれています。天体撮影時など、極軸を正確に合わせたいときは、そのズレも考慮して合わせる必要があります。



極軸望遠鏡を使う方法

極軸望遠鏡は、赤道儀に内蔵された小さな望遠鏡です。一般的に赤道儀の赤経の回転軸を貫通するように設置されており、この望遠鏡を覗いて北極星を視野に入れ、極軸を合わせます。

極軸望遠鏡には、北極星の導入位置を示すスケールパターンが示されています。上述の通り、北極星は天の北極から僅かに外れていますので、視野の中心ではなく、スケールパターンが示す場所に北極星を導入します。

上は、ビクセンSX赤道儀用の極軸望遠鏡PF-LIIのスケールパターンです。北極星とその近隣の星2つを使って合わせるタイプです。他にも様々なスケールパターンの極軸望遠鏡があります。
なお、複数の星を使って合わせるPF-LIIの場合、架台の水平出しは不要ですが、北極星だけを使うタイプの場合は、架台を水平に設置してから行う必要があります。


ポールマスターを使う方法


ポールマスターは、CMOSセンサーが内蔵された、とても小さな電子望遠鏡で、光学望遠鏡の極軸望遠鏡の代わりとして使うことができます。

使い方は、まず、アダプターを使用して、ポールマスターを赤道儀に固定します。その後、ポールマスターとパソコンをUSBケーブルで繋ぎ、ポールマスター専用のアプリケーションを起動させます。アプリケーション画面に表示される指示に従って、赤道儀を動かしていくと、北極星を導入するべき位置(円)が表示されます。赤道儀の方位と高度ネジを動かして、その円の中に北極星を入れれば、極軸合わせが完了です。

ポールマスターにはパソコンが必要になりますが、極軸望遠鏡が内蔵されていない赤道儀でも簡単かつ正確に極軸を合わせられるので、天体写真ファンに人気があります。


3点アライメント方法

極軸望遠鏡やポールマスターを使用する方法では、北極星が見えない場合は、極軸を合わせることができません。そのような場合には、3点アライメント方法による極軸合わせが便利です。以下、その手順をご紹介しましょう。
まず、方位磁針などを使って、赤道儀の極軸をおおよそ北の方向に向けます。架台のモードを「極軸の合っていない赤道儀」に設定し、3点アライメントを行って、天体を正確に導入できるようにします。

次に、望遠鏡の視野中央に任意の明るい星を基準星として自動導入し、その星でアライメントを行い、自動導入した時にその星が視野の中央に来るようにします(天頂付近の星は基準星として使えないため、選ばないようにしてください)。

架台のモードを「極軸の合った赤道儀」に変更し、先ほどの星を自動導入すると、視野中央にあった基準星が動きますので、赤道儀架台の方位と高度の調整ネジだけを使って、再び視野の中心に導入しなおします。これで、極軸はおおよそ合います。

3点アライメント方法は、1998年発売のビクセンのスカイセンサー2000PCのマニュアルに手順が紹介され、広く知られるようになりました。現在のビクセンの赤道儀に付属しているSTARBOOK TENやワイヤレスユニットは、赤道儀の動作モードを切り替えた時点で星の位置が補正されるため、3点アライメント方法は使えないようですが、知識として知っておくとよいと思います。


プレートソルビングを使った方法

プレートソルビングとは、撮影した星空の画像が、天球上のどの位置を写したものであるかを割り出す機能です。プレートソルバーと呼ばれるプレートソルビング用のソフトウェアが画像と星図を解析し、撮影した天体の位置(赤経と赤緯)を探し当てて表示します。

プレートソルビング機能は、アストロアーツ社のステラショットや、ZWO社のASIAIR、N.I.N.A、APTをはじめ、多くの天体撮影用アプリケーションに実装されており、天体撮影の標準的な機能となっています。

先ほどご紹介した3点アライメント方法を、肉眼の代わりにカメラで撮影した画像を使って行うイメージを想像していただければと思います。

天体写真ファンによく利用されているNINAでは、Three Point Polar Alignmentを実行すると、基準星を撮影後、プレートソルビングにより星の位置が解析され、3点アライメントにより極軸のズレ量がパソコン画面上に表示されます(上画像参照)。ユーザーは、そのズレ量を参考に赤道儀の方位と高度調整ネジを動かして、極軸を合わせます。



星のズレを見て合わせる方法(ドリフト法)

星のズレを見ながら合わせる方法もあります。極軸を全く合わせていない状態からでも可能ですが、ズレ量が大きいと時間がかかるので、上記でご紹介した3点アライメント方法を行った後に実施すると、簡単に極軸を追い込むことができ、便利です。

まず、南の空の南中少し前の星を視野の中心に入れ、赤道儀の追尾を一旦停止します。その後、再び赤経モーターだけを動かし、先ほどの星を視野の中央に戻します。そのとき、星が北方向にずれていれば、赤道儀の極軸が西にずれているということなので、東に微調整します。


同様に、赤道儀の高度も合わせます。北東の空の星を視野の中心に入れた後、赤道儀の追尾を一旦止め、その後、再び赤経モーターを動かして星の位置を確認します。星が北にずれていれば、赤道儀の高度が高すぎるということなので、低く微調整します。

3点アライメント方法やプレートソルビングを使った方法を実施した後に、このように星のズレを確認して、極軸を微調整すれば、極軸を更に正確に合わせることができます。


最後に

極軸合わせの代表的な方法をご紹介しました。最も手軽で簡単なのは、極軸望遠鏡を使った方法ですが、最近は極軸望遠鏡が付属していない赤道儀も増えています。そのような赤道儀を使う時や、北極星が見えない場合は、是非他の極軸合わせの方法を試してみて下さい。



レビュー著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。

ASIAIRアプリで天体撮影

ASIAIRアプリで天体撮影

電視観望に続き、ASIAIRと冷却CMOSカメラを使って天体撮影を楽しんでみましょう。
カメラの設定やピント合わせ方法は電視観望と同じなので、ここでは主にオートガイ ダーの操作方法を中心に説明します。


天体撮影にはオートガイドが必須

天体撮影と電視観望の大きな違いは、露光時間の長さです。天体撮影の場合はクオリ ティを重視するため、一枚当たりの露光時間が長くなります。露光時間が長くなると 星が流れて線状に写ってしまうため、オートガイドが必須となります。




オートガイドについて

星を追尾する赤道儀を使っても、焦点距離の長い望遠鏡で長時間露出すると、星がわ ずかに流れて写ります。そのズレを補正することをガイド補正と言い、中でもCMOSカ メラ(オートガイダー)で補正することをオートガイドと呼んでいます。”オート”ガ イドと呼ぶのは、昔は手動でガイド補正をしていたためです。現在は、ほぼオートガ イドで天体撮影が行われています。



具体的には、ガイド鏡に取り付けたオートガイダーが捉えた星の画像をアプリが解析し、補正信号を赤道儀に送ってガイド補正を行います。文字で書くと難しく感じられ ますが、ASIAIRを使えば、ボタンを順に押すだけでオートガイド撮影が可能です。


オートガイダーとは

オートガイドに使用するCMOSカメラをオートガイダーと言います。ZWO社のカメラな ら、どのタイプでもオートガイダーとしてASIAIRで使用することができますが、一般 的にセンサーが小さく安価な小型モデルが使用されています。




上は、私がオートガイダーとして使用しているZWO ASI120MM miniです。新たに購入 するなら、「mini」という符号がついたモデルが使いやすいでしょう。

ガイド鏡について

ガイド鏡は、オートガイダーを取り付けて赤道儀の追尾状況を確認するための小さな 望遠鏡です。小型の天体望遠鏡でも代用できますが、オートガイド専用のガイド鏡の 方が軽量で接眼部のガタも少なく、お勧めです。焦点距離200 ミリ前後のものが使い やすいでしょう。ZWO社からも純正のガイド鏡が発売されています。




ASIAIR で機器を接続

電視観望の時と同じように各機器を接続し、ASIAIRアプリを開きましょう。オートガ イダーを接続するのも忘れないようにしてください。 電子観望の画面構成の章で説明した通り、右側に動作モードが表示されますが、初期 状態では「Preview」が選択されています。電視観望の時と同じく、天体撮影でもこの Preview モードがASIAIR の基本です。”操作に迷ったら一旦Preview に戻る”と覚え ておきましょう。




ASIAIR のオートガイダー設定画面

オートガイダーの設定画面を開きましょう。オートガイダーのカメラ選択欄の下に、 Gain設定項目があります。Gainを増やすとカメラの感度が増すので、ガイド星があま り写らないと感じたら、ゲインを上げて下さい。初めは、GainをMに設定しましょう。 次に、ガイド鏡の焦点距離(Guide Scope Focal Length)を入力しましょう。ガイド 鏡の焦点距離はキャリブレーションの動きに影響するので、正確に入力しましょう。



キャリブレーション欄の各項目には既に値が表示されていると思います。これらはデ フォルトで使用します。また、Auto Restore Calibrationをオンにすると、前回のキ ャリブレーションデーターが読み込まれます。毎回、ガイド鏡やオートガイダーを外 す場合は、オフで撮影しましょう。 Guide Camera Bin2というのは、オートガイダーに使用しているCMOSカメラをビニン グするかどうかということです。ビニングすると感度は上がりますが、解像度は下が ります。オフアキシスガイダーを使用する場合などを除き、ガイド鏡を用いる場合、 通常はオフで使用します。


ディザリングとは

オートガイダーの設定画面の一番下に、ディザリングのオンオフを切り替える項目が あります。ディザリングとは、撮影ごとに数ピクセル画角をずらして、連続撮影する 手法です。画像処理で撮影画像を重ね合わせたときにノイズが目立たなくなるので、 特に淡い星雲を狙う時に有効です。 ディザリングをオンにすると、何枚ごとにどれくらい画角をずらすかを設定する画面 が開きます。この辺りは使用している望遠鏡や好みによりますが、最初は2 枚ごとに 4ピクセルずらす設定で撮影してみましょう。


オートガイド撮影をはじめよう

電視観望の時と同じようにPreview 画面で大まかにピントを合わせた後、Focus モー ドに変えて撮影望遠鏡のピントをしっかりと合わせます。次に、撮影対象を導入しま しょう。導入後、プレートソルビングが始まり、導入補正が終了すれば、オートガイ ド撮影の開始です。 ASIAIRの左側のガイドグラフの画面をタップすると、オートガイド操作画面が開きま す。右側に並んでいるアイコンが操作アイコンで、左側の広い部分にガイド星が表示 されます。



右側一番下のアイコンをタップして、オートガイダーの露出時間を選びましょう。通常1~3秒程度が適当です。露出時間を設定後、上から2番目の更新ボタンをタップすると、オートガイダーの露光が始まり、左側の画面にガイド星が表示されます。もしガイド星が表示されない場合は、露出時間を増やしたり、オートガイダーの設定画面に戻って、カメラのゲインを上げてみましょう。
露出時間の設定の下にあるアイコンが、ガイド開始のボタンです。このボタンを押すと、オートガイダーから赤道儀へと信号が送られ、オートガイドの準備が行われます。キャリブレーション中はしばらく時間がかかるので、何も操作せずに待ちましょう。


キャリブレーションについて

キャリブレーションは、「オートガイダーからの信号に対して、赤道儀がどの方向にどの程度反応するか」をASIAIRに学習させる作業です。ASIAIRの場合、一度キャリブレーションすれば、次の対象からはキャリブレーションすることなく、すぐにオートガイド撮影に移ることができます。


なお、望遠鏡が天の北極に近づくにつれて、ガイド星の動きは小さくなるため、キャリブレーションの精度は悪くなります。そのため、天の北極付近の星でキャリブレーションを行おうとすると、ASIAIRに警告画面が出る場合があります。その時は、一度、天の赤道付近(赤緯0度付近)に望遠鏡を向けてキャリブレーションを行い、それから目的天体を再導入して撮影しましょう。


AutoRunでシークエンス撮影

オートガイドが始まったら、いよいよ撮影です。撮影は、AutoRunを使用して行います。


AutoRun画面を開くと、左側に設定欄、右側に撮影シークエンスが表示されます。右上のプラスボタンを押すと、新しい画面が表示され、撮影画像の種類や露光時間、撮影枚数を設定することができます。適当な数値が分からない場合は、Lightを選び、露出時間は300秒、枚数は5~10枚で撮影してみてはいかがでしょう。
左欄では、撮影間隔や撮影後にASIAIRの電源を切るなどが設定できます。初めはデフォルトで撮影を行ってみて、慣れてきたら自分好みの設定に変えていくとよいでしょう。



シークエンスが組めたら、AutoRun の画面を閉じ、ASIAIR の右側の丸い撮影開始ボタ ンを押すと、設定した撮影が始まります。1枚目の撮影が終わったら、画面に画像が表 示されるので、星が流れて写っていないか、露出時間は適正かなどをチェックします。 画面の左上にオートガイダーのガイドグラフが表示されるので、星が流れて写るとき は、ガイド状況を確認しましょう。


ASIAIR での天体撮影について

ASIAIRを使用すると、タブレットやスマホ画面からシークエンス撮影を組むことがで き、誰でも簡単に本格的な天体撮影を楽しむことができます。 特にオートガイドの操作方法はわかりやすく、ガイド精度も高いため、安心してガイ ドを任せることができます。ASIAIRの登場で天体撮影が手軽になったと言えるでしょ う。 次回は、ASIAIRでデジタル一眼レフカメラやミラーレス一眼を操作する方法をご紹介 したいと思います。





レビュー著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。



2023 秋の天体観測ガイド

秋の天体観測ガイド


秋の夜長は天体観測にうってつけのシーズンです。 前半には秋雨前線の停滞や台風の影響などで秋の長雨に見舞われることも少なくありませんが、後半木々が紅葉で赤く染まり始めるころには、抜けるような秋晴れの空が姿を現すようになります。この頃には夜の時間がぐっと長くなるうえ、空気が乾燥し透明度がグングン向上していきますので天体観測には格好のシーズンとなります!

秋の夜空を見上げれば、西には夏の名残の星座(はくちょう座)が輝き、東からは冬の星座(おうし座)が顔を見せ始めています。空高くにはカシオペア座やアンドロメダ座があり秋を印象づけています。

夏の間に月や、土星・木星といった惑星など、太陽系の天体を経験された入門者の方は、ぜひ次のステップとして星雲や星団の観望・撮影に挑戦してみてはいかがでしょうか?この時期に観望が楽しめる星雲・星団の例としては、M31アンドロメダ銀河、H-χ二重星団、M45プレアデス星団などがあります。大口径の双眼鏡を用たり、フィルタワークを駆使すれば網状星雲も眼視挑戦が可能な対象です。 撮影ならそれらに加え、ケフェウス座のIC1396、ペルセウス座IC1805、ぎょしゃ座のIC410/IC405など、近赤外域のHα線を発する赤い星雲が好対象となります。

お好みの天体を、用途にあった機材を選択してしてお楽しみください!




南の方角を観測すれば星々は東から昇り西へと沈む、太陽と同じような動きで移動します。惑星観測から始めた初心者の方にはこの星の動きになじみがあると思いますが、くるっと180度回転して北の方角を向いてみれば、星々は北極星を中心に反時計回りをする動きになります。上図ではM31アンドロメダ銀河の位置がほぼ天頂です。

ヒント→ 上記星図は11月15日午後8時ものです。月と惑星以外のすべての星の位置は、日時が1か月進めば、観測時刻を2時間早めることでほぼ同じになります。  ◎恒星の位置 : 10月15日午後10時 ≒ 11月15日午後8時 ≒ 12月15日午後6時

星図:ステラナビゲーターで作成


眼視・撮影向き 撮影向き
・網状星雲
・H-χ二重星雲
・M45プレアデス星団

・M31アンドロメダ銀河
・北アメリカ・ペリカン星雲
・ガーネットスターとIC1396
・ハート&ソウルIC1805・IC1848
・勾玉星雲IC405・IC410


ペルセウス座
▲マウスを載せると詳細表示
大きい写真はコチラ 
おうし座の北~ぎょしゃ座
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ペルセウス座の全景です。
右上の赤い散光星雲はIC1805ハート星雲/IC1848ソウル星雲で、その少し右下には二重星団があります。左下の赤い散光星雲はNGC1499カリフォルニア星雲です。
105mm+ペンタ67銀塩での作品ですがAPS-C機+50mmレンズでも、ほぼ同等の画角が得られます。
おうし座の北からぎょしゃ座にかけての領域です。
左の赤い星団がIC405勾玉星雲、右がカリフォルニア星雲です。右下の青い散開星団はM45プレアデス星団です。
105mm+ペンタ67銀塩での作品ですがAPS-C機+50mmレンズでも、ほぼ同等の画角が得られます。
網状
大きい写真はコチラ 
はくちょう座の超新星残骸です。特に明るい写真左側NGC6992は眼視挑戦が可能な星雲として知られます。
ドブソニアン望遠鏡や、望遠鏡2本を使って作成する対空双眼望遠鏡に、OIIIなどのネビュラフィルターを組わせて挑みます。
写真にとれば赤と青緑の対比が美しく、超新星爆発による微細なフィラメント構造が観測できます。

撮影光学系:タカハシ ε-180ED
撮影カメラ:Astro6D(キヤノンEOS6D フィルター換装・冷却改造モデル)
赤道儀:ビクセンAXD赤道儀にて追尾、ステラショット、M-GENにてオートガイド追尾
カメラの設定:ホワイトバランス 手動設定、ISO1600、
RAWモード、IDAS UIBAR-Ⅲフィルター
露出時間:180秒×12コマ
画像処理ソフト:ステライメージ8、PhotoshopCC 2015
撮影場所:岡山県備前市吉永町 八塔寺、2018年撮影
M31
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網状
大きい写真はコチラ 
私たちが住むこの天の川銀河の、お隣さんの銀河です。7倍程度の双眼鏡でも中心の明るい部分が眼視できます。 写真にとると見事な腕の広がりが撮影でき、その広がりの大きさは満月5つ分ほどもあります。 アンドロメダ銀河は現在、私たちの天の川銀河へ向かって進んでおり、約40億年後には衝突し融合するそうです。

撮影光学系:タカハシTOA-130、レデューサーレンズ使用
撮影カメラ:Astro6D(キヤノンEOS6D フィルター換装・冷却改造モデル)
赤道儀:ビクセンAXD赤道儀、ステラショットにてオートガイド追尾
カメラの設定:ホワイトバランスマニュアル、ISO1600、IDAS UIBAR-Ⅲ
露出時間:420秒×8コマ
画像処理ソフト: ステライメージ8、PhotoshopCC 2015
撮影場所: 岡山県備前市吉永町、2017年撮影
ガーネットスターはケフェウス座の変光星で、その正体は直径が太陽の約1500倍もある赤色超巨星です。 あまりに赤いため宝石の名になぞらえて「ガーネットスター」と名付けられました。 その南側に広がる赤い星雲がIC1396です。 恒星と星雲の色の対比がとても美しく、長時間観測できる北天に位置するため、撮影の好対象になります。

撮影光学系:タカハシ ε-180ED
撮影カメラ:Astro6D(キヤノンEOS6D フィルター換装・冷却改造モデル)
赤道儀:ビクセン AXD赤道儀にて追尾
カメラの設定:ホワイトバランス 手動設定、ISO1600、RAWモード
露出時間:240秒×12コマ
画像処理ソフト:ステライメージ8、PhotoshopCC 2015
撮影場所:岡山県備前市吉永町 八塔寺、2018年撮影
網状
大きい写真はコチラ 
写真右側の星雲がIC1805で、心臓のような形をしていますので「ハート星雲」という愛称があります。
左側のIC1848は胎児のような形をしていることから日本では「胎児星雲」とも呼ばれます。
母体に宿った魂ということなのか、Heart & Soul(英語で、心と魂=熱心に打ち込むの意)の語呂がいいのか、海外では「ハート&ソウル星雲」と呼ばれることが多いです。

撮影光学系:コーワ PROMINAR 500mm F5.6 FL (TX07使用, 350mm F4)
撮影カメラ:Astro6D(キヤノンEOS6D フィルター換装・冷却改造モデル)
赤道儀:ビクセン SXP赤道儀 にて追尾
カメラの設定:ホワイトバランス 手動設定、ISO1600、RAWモード
露出時間:240秒×13コマ
画像処理ソフト:ステライメージ8、PhotoshopCC 2015
撮影場所:岡山県備前市吉永町 八塔寺、2018年撮影
ぎょしゃ座の星雲星団
▲マウスを載せると詳細表示
大きい写真はコチラ 
ぎょしゃ座は日本では11月の2時ごろ、12月の0時ごろに天頂付近を通過します。観測条件が良いため、写真写りの良い星域です。
コーワプロミナー350mmF4とフルサイズカメラを組み合わせれば、左に2つの淡い散開星団M36/M38、右に散光星雲IC405/IC410を配したご覧のような構図が完成します。
この付近は冬の天の川にあたりますので星がびっしりと集まり、その星々の色は様々で表情豊かなことも特徴です。

撮影光学系:コーワ PROMINAR 500mm F5.6 FL (TX07使用, 350mm F4)
撮影カメラ:Astro6D(キヤノンEOS6D フィルター換装・冷却改造モデル)
赤道儀:ビクセン SXP赤道儀 にて追尾
カメラの設定:ホワイトバランス 手動設定、ISO1600、RAWモード
露出時間:240秒×13コマ
画像処理ソフト:ステライメージ8、PhotoshopCC 2015
撮影場所:岡山県備前市吉永町 八塔寺、2018年撮影


難易度: 易 ★☆☆☆☆ 難易度: やや易 ★★☆☆☆
難易度: 並 ★★★☆☆ 難易度: やや難 ★★★★☆ 難易度: 難 ★★★★★


Lacerta MGEN-3のインプレッション

Lacerta MGEN-3のインプレッション

Lacerta MGEN-3 オートガイダーは、一世を風靡したM-GEN オートガイダーの後継機種 です。MGEN-3 は、前機種のスタンドアローン型の機能を継承しつつ、より進化し、使い やすくなりました。今回は、MGEN-3 の概要や前機種との違いをご紹介しながら、オート ガイダー撮影時の使用感をまとめました。

MGEN-3 オートガイダーの外観と概要

MGEN-3 オートガイダーは、ハンドコントローラーとガイドカメラで構成されています。 ハンドコントローラーとガイドカメラの他、各種ケーブル、望遠鏡と接続するためのアダプ ター類、そして詳しい日本語マニュアルが付属しています。

ハンドコントローラーの底部には、上写真のように、各種ケーブルを接続するコネクタが設 けられています。一番左は、デジタルカメラ接続用のジャックです。その右側にAUX端子 とSDカードスロット、中央にガイドカメラUSB用コネクタ、その右にオートガイドケー ブルを接続するコネクタと電源供給用USBコネクタが写っています。 ガイド状況を監視する撮像素子(CMOS センサー)は、直方体をしたガイドカメラ内に固 定されています。撮像素子には、ピクセルサイズが3.75×3.75(μm)のモノクロCMOS セ ンサー(CMOS AR0130CS)が用いられています。ガイドカメラ用として標準的なセンサー ですが、感度は十分で、実際の撮影でもガイド星探しに困ることはありませんでした。

ガイドカメラの内側には、1.25インチのフィルターネジ(M28x0.6)が切られています。カ メラには1.25 インチのノーズリープやT2 マウント用アダプターが付属しており、これら を使えば望遠鏡の接眼部に取り付けることも可能です。

前機種M-GEN との比較

MGEN-3を前機種のM-GENと比較したときにまず目に留まるのは、ハンドコントローラ ーの画面が大きく見やすくなったことです。画面の解像度も高く、カラー化されたので、前 機種に比べて文字やアイコンが大変見やすく、操作感が大幅に向上しました。

画面の向上に加えて、便利な機能も追加されています。中でも特筆すべきは、ワンプッシュ オートガイダー機能が搭載されたことでしょう。その名の通り、コントローラー上の「Start Guiding」ボタンを1度押すだけで、ガイド星の探索からキャリブレーション、そしてオー トガイドまで自動で行ってくれます。M-GENでは、ガイド星探し→ガイド星選択→キャリ ブレーション→ガイド開始と、それぞれ作業が必要でしたが、それらが文字通り、ワンプッ シュで可能になりました。非常に便利で、一度使うと手離せない機能です。

ガイド動作自体も、複数の星をガイド星に選ぶ、マルチスターガイドに対応し、精度を向上 させるアルゴリズムが追加されました。 その他、前機種ではDC12V ジャックだった電源端子がDC5V のモバイルバッテリーに対 応するなど、使い勝手も大幅に向上しており、MGEN3は、M-GENの大進化版と言えそう です。

MGEN-3 のガイド鏡のセットアップ

MGEN-3を実際に使用する前に、MGEN-3のカメラをガイド鏡に取り付け、ピントを合わ せておきましょう。遠征する場合も、自宅でガイド鏡のピントをしっかりと合わせておけば、 現地ですぐに撮影に移ることができ、ストレスがありません。 オートガイド用のガイド鏡には、昔は小型の天体望遠鏡が使われていましたが、最近は焦点 距離の短いレンズがコンパクトかつ軽量でよく使われます。 MGEN-

MGEN-3 のガイド鏡によく使用されているのは、小型ビジョンカメラ用のレンズです。コ ーワの75mmと100mmレンズがオートガイド用として実績があり、MGEN-3とこれらの レンズがセットとなった商品も販売されています。MGEN-3 カメラとレンズに合わせた固 定パーツもセットになっているので、これからガイド鏡を探すならこのセットがお勧めで す。 ガイド鏡の準備が整ったら、MGEN-3 を接続してピントを合わせておきましょう。ピント 合わせは、MGEN-3 のライブビュー画面で行うと合わせやすいです。取扱説明書を見なが ら、ライブビュー画面を開き、星が小さくなるようにピントリングを動かします。

星でピントを合わせにくい環境なら、遠くの夜景でピントを合わせることもできます。ピン トが合ったら、ピントリングをテープなどで固定し、誤ってピントをずらしてしまわないよ うにしましょう。

MGEN-3 とデジタルカメラの接続

MGEN-3 とカメラをケーブルで繋ぐと、カメラのシャッターをMGEN-3 からコントロー ルできるようになります。

MGEN-3 用のシャッターケーブルとしては、K-Astec 製のM-GEN 用シャッターケーブル2(2.5mmジャック用)が便利です。このケーブルには、2.5mmジャックケーブルの他に、拡張ポートが設けられているので、この端子に市販のシャッターケーブル(ビクセンシャッ ターケーブル各社用、ビクセンシャッターケーブルSony用)を繋ぐと、他社製カメラを制 御することも可能です。また、2台同時にシャッターを切ることもできます。

MGEN-3 にはディザリング撮影機能が内蔵されていますが、この機能を使用するには、カ メラのシャッター制御が必要です。是非シャッターケーブルも準備して、ディザリング撮影 に挑戦してみましょう。

Tips: ディザリングとは:1枚撮影が終わる度にオートガイドが一旦停止し、数ピクセル構 図を移動させた上で、再びオートガイドを開始し、シャッターを切る撮影アルゴリズム。画 像処理時のノイズを平均化する効果がある。

MGEN-3 とAP 赤道儀でオートガイド撮影

MGEN-3オートガイダーを郊外に持ち出し、実際にオートガイド撮影に使用してみました。 今回使用した機材は、小型で高性能な天体望遠鏡ビクセンFL55SS とビクセンAP 赤道儀 です。MGEN-3は、コーワ100ミリレンズや固定金具等がセットになった、MGEN-100HSA を使用しました。

撮影テストでは、まずワンプッシュオートガイドの動作を確認しました。マニュアルに記載 された通り、ボタンを押すだけで、ガイド星の選択からキャリブレーション後のガイド開始 まで、スムーズに行うことができました。
撮影では、デジカメの感度をISO1600、露出時間を480 秒に設定して撮影しました。ガイ ド中、MGEN-3 と赤道儀のコントローラーをチェックしていましたが、ガイド補正信号は 赤道儀に的確に伝達され、撮影した星に流れはありませんでした。

上は、MGEN-3を使って撮影した、いて座のM8とM20星雲です。480秒露光の画像を6 枚重ね合わせた後、コントラストを強調した画像ですが、夏の天の川の中の星雲が色鮮やか に写し出されています。
M8 とM20 を撮影後、ワンプッシュオートガイドを終了し、今度は、ガイド星選択からキ ャリブレーション、ガイド開始までマニュアルで設定して撮影を行いました。

マルチスターガイドになったため、選択されるガイド星の数が一気に増えたことに驚きま したが、追尾精度は良好で、こちらも撮影した星に流れは発生しませんでした。

ポータブル赤道儀とMGEN-3

MGEN-3 はパソコンやタブレット端末が不要のスタンドアローン型なので、ポータブル赤 道儀とも相性の良いオートガイダーです。実際に、ユニテック社のSWAT-350 に載せて、 1軸ガイド撮影を試してみました。

まず、SWAT用のハンドコントローラーのガイド端子に、ガイドケーブルを接続します。次 に、MGEN-3を起動してメニュー画面を開き、赤緯軸をオフにしましょう
。 その後は、通常操作と同じように、ガイド星選択からキャリブレーション、ガイド開始でオ ートガイド撮影を楽しむことができます。

追尾精度が高いSWAT-350 でも、長時間ノータッチで連続撮影すると星が少し流れて写る コマが発生しますが、MGEN-3 で1 軸オートガイドすると撮影画像は全て点像で写りまし た。一般的なポータブル赤道儀なら、よりMGEN-3の効果が感じられると思います。

MGEN-3 の印象

MGEN-3 オートガイダーを使用した印象や上記で触れなかった内容を、以下に箇条書きで 列挙します。
前機種と比べて画面が非常に見やすくなり、アイコン化のおかげで操作もしやすくなった。 また、モバイルバッテリーに対応したので、DC12V電源を用意する必要がなくなった点は 嬉しい。
ワンプッシュオートガイドは大変便利で信頼性も高い。久しぶりの撮影でオートガイドの 操作方法を忘れていたが、この機能のおかげでマニュアルを見ずに撮影を開始することが できた。一度使うと手離せない便利な機能だ。
マルチスターガイドになって更に精度が向上し、オートガイドの安定感も増したように感 じられる。ただ、場合によってはガイド星が多すぎると感じる場合もある。ガイド星を個別 にキャンセルすることは可能だが、ガイド星の最大数を設定できればさらに便利だと感じ た。
コーワのガイド鏡には、K-Astecのフードヒーターを取り付けた。専用設計だけに一体感が あり、カメラ部分とフードの前後2点留めができるため、安心感が増した。結露防止性能も 十分で、レンズの結露を気にせずに撮影を続けることができた。
ビクセンAP-WM赤道儀MGEN-3のマッチングは良好で、大容量のモバイルバッテリー 1 個で両方を動作させてオートガイド撮影することができた。ビクセンFL55SS も小口径 ながら星像はシャープで、手軽ながら天体撮影を本格的に楽しめる組み合わせだと感じた。 MGEN-3SWAT-350 の組合わせで撮影してみて、ポータブル赤道儀と組み合わせての1 軸ガイドもアリだと感じた。オートガイド端子が装備されているビクセン星空雲台ポラリ エUなどと組み合わせれば、星雲星団の撮影も楽しめそうだ。

まとめ

今回のテスト撮影を通じて、Lacerta MGEN-3 オートガイダーは、前機種のスタンドアロ ーン機能を継承しながら、更に使い勝手や精度が向上したオートガイダーであることが確 認できました。 感心したのは、ワンプッシュオートガイド機能の便利さです。数か月振りに撮影するときな ど、オートガイダーの操作方法を忘れてしまった場合でも、ワンプッシュでガイド開始まで 行ってくれるので、本当に助かります。貴重な撮影時間を無駄にすることもありません。 M-GENが一世を風靡していた数年前と比べると、ワイヤレスで動く機器なども登場し、オ ートガイド撮影の環境も様変わりしました。それでもMGEN-3は、スタンドアローンと低 電力という他にはない魅力を持つオートガイダーです。ワンプッシュオートガイド機能は とても快適です。是非、MGEN-3での天体撮影をお楽しみください。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

ASIAIRとstellaimageを使った天体写真の画像処理 基本編

ASIAIRとstellaimageを使った天体写真の画像処理 基本編

撮影した画像を画像処理して綺麗に仕上げてみましょう。
今回は、天体写真の画像処理の基本、ダーク・フラット補正やスタック処理について説明します。

ダークノイズについて

デジカメや天体用カメラに採用されているCMOSセンサーは、レンズで受け止めた光を電気信号に変換し、画像として記録します。その際、カメラの電子回路に起因する微弱な電流(暗電流)もセンサーに流れ続けていて、これが時間とともに蓄積し、ノイズとなって画像に表れます。これを一般的にダークノイズと呼んでいます。

センサー温度が低くなれば暗電流が減るので、ダークノイズの量は減少します。ダークノイズは、露光時間やセンサー温度、カメラの感度などの条件が同じであれば、ほぼ同じ強さで画像に表れる特徴があるので、天体撮影後にダークノイズだけをまとめて撮影し、画像処理で取り除く(減算)ことができます。

ダークノイズを撮影するには、センサー温度や感度、露光時間を撮影画像と同じに設定し、真っ暗な中で撮影を行います。冷却機構のないカメラの場合は、センサー温度を制御できないため、天体を撮影した夜、天文薄明が始まり温度があまり変わらないうちに撮影するのが一般的です。ダークノイズが写った画像のことを、ダークフレームと呼んでいます。

Tip:天体撮影用として、冷却機構のついた冷却CMOSカメラの人気が高いのは、センサー温度を低くすればダークノイズが減るからです。


バイアスについて

露光時間0秒で撮影した画像のことをバイアスフレームやバイアスと呼んでいます。バイアスには、撮像素子が受けた光の情報は含まれておらず、カメラの電子回路に起因するノイズだけが含まれています。

バイアスの撮影方法は、カメラに蓋をして、センサー温度やカメラの感度を同じにし、露光時間は0秒もしくは、カメラの最短露光時間で撮影します。ASIカメラの場合は、ASIImgのオートランの中に、バイアス撮影モードがあるので、それを利用して撮影しましょう。

画像処理時、ソフトウェアによっては、バイアスとダークフレーム、両方を指定する必要があるものもありますが、一般的にはダークノイズにバイアスも含まれているので、ダークフレームを減算するだけで、長時間ノイズとバイアスはしっかり減算されます。
Tips:バイアスやダークノイズの呼び方に明確な定義はなく、人によって異なることがあります。例えば、ダークノイズからバイアスを減算したノイズ画像のことを、ダークフレームと呼ぶ人もいます。慣れてくればニュアンスでわかりますので、あまり気にしなくても大丈夫です。


フラットフレームについて

フラットフレームとは、光学系の周辺減光を補正するための撮影画像です。下のように、周辺減光以外、何も写っていない画像です。

フラットフレームの撮影は、カメラに望遠鏡を付けた状態で行います。望遠鏡の筒先には、光を拡散するため、白いトレーシングペーパーや布を被せるのが一般的です。カメラに蓋をして簡単に撮れるダークと異なり、撮影に使った望遠鏡も必要になります。
何も写さないなら撮影は簡単と思われるかもしれませんが、正確なフラットフレームを得るには均質な明るさの光源が必要なため、撮影はなかなか難しく、いろいろ工夫されています。EL調光板を使う方法もありますが、私は天体望遠鏡の筒先にトレーシングペーパーをかぶせて、天文薄明が始まり、星がまばらになった頃合いを見計らって、フラットフレームを撮影しています。

薄明の空を使ったフラットフレームの具体的な撮影方法は以下の通りです。

  1. 望遠鏡を天頂に向け、筒先に光を拡散するシート(トレーシングペーパー)などを付ける。
  2. カメラの感度は撮影時と同じ。露光時間は明るさに合わせて変更する(目安5秒前後)。
  3. 1枚テスト撮影後、画像を確認して、明るすぎたり暗すぎたりしないかを確認する。
    明るすぎるときは露光時間を短く、暗すぎるときは長くする。
  4. ライトフレームと同じだけの枚数を撮影する。


Tips:フラットフレームの明るさは、ライトフレームと同じぐらいが目安です。画像のヒストグラムの山の位置が、ライトフレームと同じ程度になっているようにしましょう。


スタック処理(コンポジット処理)

スタック処理は、撮影した画像を重ね合わせてノイズを平均化するために行います。コンポジットとも呼ばれていますが、最近は英語表記に合わせて「スタック(Stack)」と呼ばれることが多くなりました。

スタック処理は、撮影画像に表れるランダムノイズを低減するために行う処理です。ランダムノイズはその名の通り、ランダムに表れるノイズで、発生パターンに再現性がありません。そのため、ランダムノイズを減らすには、数多くの画像を重ね合わせて画像を均一化します。最初は、撮影が楽でノイズ低減効果を感じやすい4枚を目安にするとよいでしょう。
なお、バイアスフレーム、ダークフレーム、フラットフレームにもランダムノイズは発生するので、これらの補正画像もスタック処理をして画像を均一化しておきましょう。枚数は、撮影画像と同じ枚数が目安です。


ASIDeepStackでダーク・フラット処理

ASIStudioに付属している、ASIDeepStackでダーク・フラット処理を試してみましょう。ASIDeepStackは、最新バージョン1.9での作業をご紹介しています。

ASIDeepStackを起動すると、上画像のように、右上にファイルという項目があり、この下に、バイアス、フラット、ダーク、ライトフレームを選ぶリストボックスが表示されています。タブを切り替えて、該当の撮影画像を選択しましょう。
次に、右上にある設定アイコンを押して、ファイルの保存先を指定してください。

設定が完了したら、スタックボタンを押しましょう。処理の進捗状況を表示するダイアログボックスが表れた後、ダーク・フラット補正後のスタックされた画像が画面に表示されます。

ヒストグラムのボタンや矢印を移動させると、画面に表示されている画像の明るさやコントラストが変わるのを確認できます。

また、画像処理欄にある、明るさやコントラストのスライダーを使って、好みの画像に仕上げましょう。
画像処理が終わったら、ファイルの保存から画像データーを保存します。画像は、fit形式の外、TIFFやJPEG形式でも保存されます。TIFFやJPEGは一般的な画像表示ソフトで開けるので、SNS等に投稿することもできます。


ステライメージ9でダーク・フラット処理

天体写真の画像処理ソフトと言えば、日本ではアストロアーツ社のステライメージ9がよく使用されています。ステライメージ9は、ダーク・フラット処理はもちろん、スタック処理時に細かな設定ができるなど、市販ソフトだけに機能が充実しています。





レビュー著者
吉田 隆行氏  ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。




カメラのドライバーやソフトウェアをカメラ付属のCD-ROMやZWO社のWebサイトからダウンロードしましょう。


2023夏の観測ガイド

夏の観測ガイド

夏は天の川やその周辺に位置する星雲星団など、たくさんのメジャー天体を観測することができます。
星雲や星団なんて難しくてわからない、という入門者の方はまず「夏の大三角」(=デネブ・ベガ・アルタイル)を見つけることから始めてみましょう。主要な恒星が複数把握できるようになれば、それらの位置関係との対比で星座早見盤などを頼りに星雲や星団にたどり着くことができるようになります!


ステラナビゲーターVer.11で作成


夏の天の川は雄大です。夏の天の川は、地球から私たちの住む銀河系の中心部を眺めた姿です。
吉田隆行氏 「大台ケ原の天の川」
天体写真家の吉田隆行氏は、標高1600メートルの大台ケ原を往復3時間歩いてこの作品を撮影しました。低空にかかった淡い雲海で下界と隔離された原野の風景が天の川の光によって映し出され、雄大な天の川銀河の姿と相まって荘厳な印象を与えています。
星景写真の撮影のためにトレッキングする場合、カメラや三脚といっしょに担いで歩けるポータブル赤道儀を使用します。撮影チャンスを確実のものにするためには、小さくても高精度で信頼性の高いポータブル赤道儀をご選択ください。


SWATシリーズの最高峰!「ユニテック SWAT-350」


そろそろ惑星もシーズンイン!です。



2023年8月15日午前0時 南南東の空 

一番明るい星といえば「1等星」という言葉をイメージされる方も多いと思いますが、夏の大三角のデネブの明るさが約1等級であるのに対し、土星は約0等級、木星に至ってはマイナス2等級以上の明るさがありますので意外とすぐに見つけられます!(等級が1つ上がると約2.5倍明るくなります。)
「惑星を見たことがありますか?」 と質問すると多くの方がありませんとお答えになります。しかし「あの明るい星は何だろう?」と疑問に思われた場合、その星がまさに惑星だったということはとても多いです。
2023年の土星はみずがめ座にあり、ふだんはフォーマルハウトが一人存在感を示す秋の空の領域を、より明るく照らしています。 夜半になると木星も姿を現します。 夏は気流の安定した夜が多く、高倍率に耐えるシーイングに恵まれ惑星観測に適しています。是非挑戦を!


惑星を撮ってみよう 初めての望遠鏡購入ガイド

満天の星空の下、天体観測をお楽しみください!!




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