ビクセン ED103S(SD103S) のインプレッション

ビクセン ED103S(SD103S) のインプレッション

ビクセン SD103S

ビクセンSD103SSDレデューサーHDキットの結像性能を調べるため、 「デジタル対応SD改造サービス」を行ったビクセンED103Sをフィールドに持ち出し、 実際に天体撮影を行ってみました。

なお、SD103Sは、前モデルであるED103Sのドローチューブ内の絞りの位置を変更したマイナーチェンジモデルです。 よって、「デジタル対応SD改造サービス(絞りを改造するサービス)」を実施したED103Sの撮影結果は、 SD103Sを使って撮影した場合と同じとお考えいただければと思います。


ビクセンED103について

ビクセンED103S鏡筒は、口径103mm、焦点距離795mm(F7.7)の2枚玉アポクロマート屈折望遠鏡です。 本体重量は3.6キロと比較的軽く、 鏡筒バンドにはキャリーハンドルも付けられているため、持ち運びのしやすい鏡筒です。

天体観測の入門者用として人気の高いSD81Sに比べると、ED103Sの口径は約2センチ大きいだけですが、 鏡筒の外観は二回りほども大きくなっており、口径差以上の大きさの差を感じます。 下写真は、ED103SとSD81Sを並べて置いたところです(ED103Sの鏡筒バンド類は取り外しています)。

ビクセン SD103S

口径2センチの差は、星雲星団の観望ではそれほど感じませんが、惑星を高倍率で観望すると、 集光力と分解能の差を感じます。 SD81Sではわかりにくかった木星の縞模様の様子など、ED103Sでは明るくよく見えます。

ED103Sには、暗視野照明付きの光学ファインダーが付属します。SD81S付属のスポットファインダーに比べて、 光学ファインダーでは暗い星もよく見え、天体を導入しやすいと感じました。

天体撮影用のフラットナーレンズ(SDフラットナーHD)とレデューサーレンズ(レデューサーHD)は、SD81Sと同じ製品を使用できます。 フラットナーレンズとレデューサーレンズについては、別レビューもご覧ください。


SDフラットナーHDの天体撮影

まず、ED103SにSDフラットナーHDを取り付けて、天体撮影を行ってみました。 ED103SにSDフラットナーHDを取り付けると、焦点距離は811ミリになります 。F値は暗くなりますが、天体を大きく写したいときに重宝する補正レンズです。

撮影対象には、おおぐま座で輝く系外銀河、M101を選びました。 撮影に使用したカメラは、天文用冷却デジタル一眼レフカメラのAstro6Dです。 赤道儀は、ビクセンSXP赤道儀を用い、オートガイド撮影を行いました。

ビクセン SD103S

上は、上記機材で6枚撮影し、画像処理ソフトで仕上げた写真です。 35ミリフルサイズセンサーはセンサー面積が大きいため、フラットナーレンズを用いてもM101銀河はそれほど大きく写りませんが、 漆黒の宇宙に浮かぶ銀河のイメージが得られる写真だと思います。 画像中央付近を切り抜いた写真を以下に載せました。 撮影時のカメラの設定は、ISO1600、1枚当たりの露光時間は600秒です。

ビクセン SD103S

M101銀河を拡大した画像です。星像はシャープでコントラストも良好です。 シャープ処理は一切施していませんが、銀河の腕のディテールもよく表現されています。

ビクセン SD103S

こちらは、右下隅の一部を拡大した画像です。 35ミリフルサイズ最周辺部まで、ほぼ点像を保っており、色ずれもほとんど感じられません。


SDフラットナーHD使用時の周辺減光

次に、周辺減光について見ていきましょう。 下は、ED103SにSDフラットナーHDを取り付けて撮影した際のフラットフレーム画像(未処理)です。

SDフラットナーHDの周辺減光

35ミリフルサイズの画角ですが、未処理の画像からは減光は感じられません。 次に、フラットフレーム画像を、レベル補正コマンドを使って約5倍に圧縮強調しました。

SDフラットナーHDの周辺減光

ここまで強調すると、周辺部が中央部に比べて暗くなっている様子がわかります。 しかし、画面全体として減光はなだらかで、周辺減光の補正はしやすいでしょう。 センサーサイズが小さなAPS-Cサイズのデジカメなら、フラット補正無しで仕上げることもできそうです。


ビクセンED103SとSDレデューサーHDキットで天体撮影

次に、SDレデューサーレンズも取り付けて撮影しました。 レデューサーレンズも取り付けると、焦点距離は624ミリになります。 少し珍しい焦点距離ですが、散光星雲を大きく撮影するには適当な画角でしょう。

撮影対象には、夏の天の川銀河の中で輝く、いて座のM8とM20星雲を選びました。 微恒星も多く、光学系のシャープさが問われる星域です。 撮影に使用した機材は、フラットナーレンズのみを使用した時と同じです。

ビクセン SD103S

上は、上記機材で6枚撮影し、画像処理ソフトのステライメージ8で仕上げた写真です。 画角全体にわたって星はシャープで、コントラストも良好です。星像確認のため、 画像中央付近を切り抜いた写真を以下に掲せました。 なお、撮影時のカメラの設定は、ISO1600、1枚当たりの露光時間は480秒です。

ビクセン SD103S

拡大画像から、色収差の発生もほとんど感じられず、鋭い星像を結んでいることがわかります。

ビクセン SD103S

上は、画像の右下隅の一部を拡大した画像です。 35ミリフルサイズの最周辺部になると、収差で星の形が若干放射状に崩れているものの、ほぼ真円を保っていると言えます。色ずれの発生もほとんど感じられません。星像についてはフラットナーレンズのみを使用した時の方がよりシャープな印象を受けましたが、 レデューサーHDは、焦点距離を短くしながら、諸収差も良好に補正できているという印象を受けました。


レデューサーHD使用時の周辺減光

レデューサー使用時の周辺減光について確認しましょう。 下は、ED103Sとレデューサーを取り付けた際のフラットフレーム画像(未処理)です。

レデューサーHDの周辺減光

35ミリフルサイズの画角ですが、元画像では、写野端でも減光はほとんど感じられません。 画像処理ソフトのレベル補正コマンドを使って、約5倍のコントラスト強調を実施すると、四隅に近づくにつれ、光量の落ち込みが確認できますが、 勾配はそれほど急ではなく、なだらかに減光しているイメージです。

レデューサーHDの周辺減光

周辺減光は発生しているものの、 レデューサーレンズ使用時でも極端な減光ではなく、補正しやすい光学系であることが確認できました。


撮影後の印象

今回、ビクセンED103Sを使って天体撮影に使用した印象を、以下に箇条書きでまとめました。

ED103SとSDレデューサーHDキットのマッチングは良好で、35ミリフルサイズカメラのほぼ全面にシャープな像を結ぶ。 周辺減光も少なく、天体撮影に使いやすい組み合わせであることが確認できた。

SD81Sと比べると若干ましではあるが、ED103Sでも撮影時に輝星に回折光が写りこんでしまう。 星像が良いだけに残念なので、レンズに出っ張った錫箔を隠すなどの対策をメーカーにお願いしたい。

SDフラットナーHD使用時の焦点距離は811ミリと長く、解像力も高いので、 センサーサイズの小さな冷却CMOSカメラと組み合わせれば、 春の系外銀河の撮影も楽しめそうだと感じた。

SD81Sに比べて大きく重いので、ポルタII経緯台では少々苦しく、SXクラス以上の赤道儀に搭載したい。 自動導入機能の付いた赤道儀に載せれば、 小さな系外銀河でも簡単に導入でき、このクラスの望遠鏡には適した組み合わせだと感じた。


まとめ

今回のテストを通じて、ビクセンED103S(SD103S)は、口径10センチの天体望遠鏡ながら、持ち運びしやすく、 自宅での月や惑星の観望から、補正レンズを併用した天体撮影の分野まで、幅広く使用できる機材だと感じました。

天体撮影では、ビクセンのSDレデューサーHDキットとのマッチングが良好で、 35ミリフルサイズ全面にシャープな像を結ぶことが確認できました。 最近、注目されているセンサーサイズの小さい冷却CMOSカメラと組み合わせれば、 星雲星団だけではなく、春の銀河まで撮影を楽しむことができると思います。

口径10センチの屈折式天体望遠鏡は、性能と大きさのバランスが良く、屈折のスタンダードとも言える機材です。 SD81Sからのステップアップとしてはもちろん、最初からSD103Sを購入してじっくり天体観測を楽しむのもよいでしょう。 SD103Sは、入門者からベテランまで、それぞれの目的に合わせて使用できる天体望遠鏡だと感じました。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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