セレストロンRASA8の使用感

セレストロンRASA8の使用感

セレストロン8″Rowe-Ackermann Schmidt Astrograph(以下、「RASA8」)は、天体撮影専用の望遠鏡(アストログラフ)です。F値が2と望遠レンズ並みに明るく、短時間露光でもよく写るので、天体撮影や電視観望用として人気の高い望遠鏡です。今回は、RASA8を使って天体撮影や電視観望を行い、使用感を確認してみました。




セレストロンRASA8について

RASA8は、セレストロンRASAシリーズの中で最も小さな望遠鏡です。RASA8は、口径約203mm、焦点距離は400mm、F値が2の光学系です。
他のRASA同様、RASA8の筒先には、シュミット補正板が固定されています。星からの光は、シュミット補正板を通ってから主鏡で集められ、補正レンズに届きます。RASA8のF値は、RASAシリーズの中で最も明るく、F2を誇ります。

補正レンズには、4枚構成の光学系が採用されています。カメラは、補正レンズの先に取り付けます。いわゆるプライムフォーカスという接続方法で、斜鏡で光を90度曲げて筒外に光を導くニュートンやイプシロン光学系と異なり、天体観望には使用できません。天体撮影での使用のみを考えた設計です。
光学系のイメージサークルは22mm、バックフォーカスは29mm(補正レンズ面から)です。イメージサークルの広さやバックフォーカス長を考えると、フォーサーズサイズの天体撮影用CMOSカメラ(ZWO社のASI294MCPro等)が適しています。カメラを取り付けるためのM42カメラアダプター、Cマウントカメラアダプターも付属しています。

RASA8の外観は、同社のシュミットカセグレン式望遠鏡(シュミカセ)の鏡筒長を少し長くしたような形状をしています。ピントも、シュミカセと同じく、主鏡を前後に動かして合わせる方式が採用されています。
RASA8鏡筒の重さは7.7キロ、同口径のシュミカセと比べると2キロほど重くなっていますが、口径20センチクラスのアストログラフとしては軽く、遠征撮影にも気軽に持ち運びできる重さです。


セレストロンRASA8へのカメラ取り付け


RASA8には、カメラを取り付けるためのアダプターが付属していますが、今回のテスト撮影では、アイダス社から販売されているドロップインフィルターアダプター・AD19.4を使って、ZWO社の冷却CMOSカメラASI294MCProを取り付けました。

標準付属のアダプターとは異なり、AD19.4はテーパーで取り付け取り外しができるので便利です。また、ドロップインフィルターボックスが装備されているので、ドロップインフィルターDiシリーズにラインナップされている、NBZフィルターやLPSシリーズを使って、フィルター効果を生かした撮影を楽しむことも可能です。
カメラに繋ぐUSBケーブルと電源ケーブルは、黒色のテープを使って1本にまとめ、筒外へ導きました。1本のケーブルが遮るため、撮影画像上の輝星には2本の光条が発生します。ケーブルの本数や位置を変えると光条の出方も変わるので、好みによって筒先のケーブルの導き方や本数を変えてみるとよいでしょう。


セレストロンRASA8を使って天体撮影


RASA8ASI294MCProを取り付けて、天体撮影を行いました。ASI294MCPro には、マイクロフォーサーズサイズのCMOSセンサー(19.1×13.0mm)が採用されているので、RASA8に取り付けたときの35ミリ換算の焦点距離は約800ミリになります。
焦点距離800ミリ前後の画角は、IC1396のような巨大な散光星雲にはやや狭く感じられますが、オリオン大星雲をはじめとしたメジャー天体を画角一杯に捉えられ、様々な天体の撮影に使用することができます。
今回、撮影対象には、アンドロメダ大銀河を選びました。赤道儀は、ビクセンSXP赤道儀、オートガイドは、オートガイダーQ5L-100GSS アルカセットを使用しています。


上は、上記機材で10枚撮影し、画像処理ソフトのステライメージ9で仕上げた写真です。画角全体にわたって星はシャープで、コントラストも良い写りです。 星像確認のため、画像中央付近を切り抜いた写真を下記に掲載しました。撮影時のカメラの設定は、ゲイン120、1枚当たりの露光時間300秒です。

F2の明るさで露光時間を300秒と長く設定したため、アンドロメダ大銀河の明るい部分が白飛びしていますが、拡大画像でも色収差の発生は感じられず、鋭い星像であることがわかります。シャープ処理等は適用していませんが、暗黒帯の描写も良好に感じられます。

上は、画像の右上隅の一部を拡大した画像です。周辺部でも星の形は丸く保たれており、色ズレも感じられません。イメージサークル内なら良好な星像を結ぶ光学系であることがわかります。


RASA8の明るさを生かしたナローバンド撮影


次に、アイダスのデュアルバンドフィルターNBZを使って、らせん星雲を撮影しました。らせん星雲は、Hα光とOIII光を強く発している惑星状星雲です。
下が、ASI294MCProを使って、300秒×8枚(ゲイン120)で撮影した画像です。 ※周囲をトリミングした画像を掲載しています。

らせん星雲は、ブロードバンド撮影ではぼんやりとしか写りませんが、デュアルバンドフィルターは、星雲が発する特定の波長のみを通すため、星雲の形がコントラスト良く写っています。
F値が明るいRASA8は、ブロードバンドだけでなく、光量が減ってしまうナローバンドにも適した光学系です。色収差の発生がほとんどないため、デュアルバンド撮影には特に適していると感じました。


フラットフレーム画像


淡い天体画像の処理には、周辺減光を補正するためのフラットフレームが必要です。RASA8の場合は筒先にカメラを取り付けるため、フラット補正を正常に行えるか心配でしたが、問題ありませんでした。

上は、RASA8のフード先に白い布を被せ、天文薄明の空を利用して撮影したフラットフレームです。カメラのセンサーサイズが小さいためもありますが、周辺減光は思っていたほど大きくありませんでした。
減光も中央部から周辺部にかけてなだらかなので、画像処理ソフトウェアのコマンドでも補正できるでしょう。


RASA8で電視観望


電視観望とは、天体望遠鏡に接眼レンズを差し込む代わりに、CMOSカメラを取り付け、パソコンの画面に天体の姿を映し出して楽しむ観望方法です。夜空の明るい都会でも天体観望を楽しめるとあって、最近、注目されている新しい星空の楽しみ方です。
RASA8は明るく、口径も大きいので、電視観望に適した望遠鏡です。また色収差もほとんど発生しないため、フィルター等を使用した際の色ずれもなく、シャープな映像を楽しむことができます。

上は、電視観望で捉えたペリカン星雲です。F値の暗い望遠鏡を使用すると、1枚当たりの露光時間が長くなり、リアルタイム感が薄れてしまいますが、RASAなら短い時間で画像が切り替わり、リアルで見ているような感覚を味わえます。
またNBZフィルターとの相性も良く、都会でNBZフィルターを使った電視観望に使いやすい望遠鏡です。


撮影後の印象


今回、RASA8を天体撮影に使用して感じたことを、以下に箇条書きでまとめました。
他の光学系と異なり、補正板の前にカメラを取り付けることにやや抵抗があったが、実際に使用してみると何ら難しくはなく、逆に鏡筒の前後バランスがとりやすくなる点をメリットに感じた。
鏡筒下部には75mm幅のアリガタプレートが固定されているので、ワンタッチで赤道儀に掲載でき、設置がとても楽だった。鏡筒が軽く、SXP2クラスの赤道議に掲載できる点もよい。
天体撮影時、ガイド鏡はファインダー台座にアダプターを介して取り付けた。焦点距離400mmで露光時間も短いため、ガイドエラーは発生しなかった。ゲインを上げて露光時間を短くすれば、オートガイド無しでも撮影可能だろう。
筒先にカメラを取り付けるため、撮影時はフードが必須だ。今回のテスト撮影では、段ボールで作成して対応したが、ケーブル取り出し口を設けた専用フードの発売をお願いしたい。
ピント合わせ用のノブは軽くて回しやすいが、個人的にもう少しクリック感があった方が使いやすいと感じた。
以前、シュミカセを使用していた際は、ミラーシフトの問題に頭を悩ませたが、RASA8ではミラーシフトの発生は感じられず、快適に撮影を楽しめた。
イプシロン光学系と比べると、星像は若干大きく感じられたが、光学系はRASA8の方が明るく、同じ露光時間でも淡い星雲の写りは良好に感じられた。
光軸は調整せず、メーカーから配送された状態で撮影を行ったが、十分に合っていた。郊外に何度か持ち出したが、光軸ズレも発生しなかった。光軸調整は、補正レンズ固定部分の傾きを変更(スケアリング調整)するだけなので、ずれにくいのだろう。
筒内気流は、付属のファンを動かすと、約1時間で落ち着いた。筒内気流が残っていると、光軸がずれている時のように写るので、勘違いして光軸を動かしてしまわないようにしたい。
ZWO社のカメラを使用する場合は、動作中は赤ランプが点灯するので、迷光防止のため、パーマセルテープなどで覆う必要があった。特にフラットフレーム撮影時は注意したい。
撮影時は冷却CMOSカメラから熱が発生するため、フードを付ければ、ヒーターなしでも補正板が夜露で曇ることはなかった。


まとめ

これまで様々な鏡筒を使用してきましたが、RASA8にはそれらのどれとも違った魅力を感じました。
一番の魅力は、F2の明るさです。快晴の夜、一晩でRASA8を様々な天体に向け、短い露光時間で次々に撮り続けられるのは楽しかったですし、1対象に絞って、ナローバンドでじっくり撮影しても好結果を得られました。何気なく行っていた電視観望についても、RASA8を使ってみて「都会でもここまで映るのか」と認識を新たにしました。
RASA8は、持ち運びやすさも魅力だと思います。また、他社製の20センチクラスの望遠鏡は、鏡筒バンドが別途必要ですが、RASA8にはプレートが付属しているのでワンタッチで架台に搭載可能です。重量も軽く、中型赤道儀に搭載できるのも便利です。
RASA8を使っていると、不思議とおおらかな気持ちになり、星像の乱れが発生したときもそれほど気にならず、「次はあの天体を撮ってみよう」と楽しく天体撮影と向き合うことができました。
s 光学系の明るさから来る余裕、それがRASA8の魅力ではないでしょうか。天体撮影用としてはもちろん、電視観望にも使えるRASA8で、プライムフォーカスの世界を体験してみてはいかがでしょうか。

レビュー著者 吉田隆行氏のサイトはこちら→天体写真の世界

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