SeestarS30のインプレッション
Seestar S30は、天文機器メーカーであるZWO社が開発したスマート望遠鏡で、日本国内では2025年春に発売されました。2023年に登場したSeestar S50で培われた技術や操作性を受け継ぎつつ、さらにコンパクトで手頃な価格を実現したモデルです。今回はSeestar S30(以下:S30)の実機をお借りし、実際にフィールドに持ち出して使い心地や天体撮影を行いました。Seestar S50(以下:S50)との比較を交えながら、性能や使い心地を詳しくご紹介したいと思います。
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Seestar S30 スマート望遠鏡 |
SeestarS30の概要
S30は、スマートフォンやタブレットを用いて操作できる、ZWO社製のスマート望遠鏡です。アプリを通じて天体の自動導入・撮影・画像処理までを一括で行うことができ、初心者でも天体写真撮影を手軽に楽しむことが可能です。本機は、2023年に発売された上位モデルS50の小型・軽量版にあたる位置付けで、三脚を含めた総重量はわずか約1.7kgです。可搬性に優れ、キャンプや遠征撮影など、様々なシーンで扱いやすいのが魅力のスマート望遠鏡です。
S30には、口径30mmの3枚玉アポクロマート屈折望遠鏡が内蔵されています。色収差を抑えた3枚玉のレンズ構成により、小口径ながらシャープでクリアな星像を実現しています。焦点距離は約150mmで、F値はF5.0となっています。撮像センサーには、Sony製IMX662(1/2.8インチ、約200万画素のカラーCMOS)を採用。暗所性能と色再現性に優れ、ライブスタック機能を活用することで、星雲・星団、月面などを高品質に撮影できます。
本体カラーはS50の黒を基調とした外観とは異なり、S30は白を基調としたデザインが採用されています。暗所でも目視で本体の位置を確認しやすく、また高級感のある仕上がりとなっています。
本体下部には3/8インチインチのカメラネジ(太ネジ)が設けられており、付属の三脚のほか、市販のカメラ用三脚にも取り付け可能です。S30は、持ち運び時に便利な専用の耐衝撃キャリングケースに収納されています。さらに、日中の太陽観測に対応するための専用減光フィルターも標準で付属しており、太陽の撮影も可能です。
Seestar S30で天体撮影の手順
通常、天体撮影には望遠鏡本体のほか、赤道儀や撮影用カメラ、PCソフトウェアなど多くの機材と知識が必要ですが、S30はこれ一台で天体の自動導入から撮影、画像処理までを一貫して行えるオールインワンシステムです。
操作も非常に簡単で、スマートフォンまたはタブレットのアプリに従うだけで、初心者でも美しい天体写真を撮影できます。以下に、基本的な手順を紹介します。
撮影手順
1. 設置場所の選定と本体設置:できるだけ視界の開けた場所(周囲に建物や木の少ない場所)にS30を設置します。安定した地面に水平を意識して置くことで、その後のキャリブレーション精度が向上します。
2. アプリのインストール:スマートフォンまたはタブレットに、ZWO公式の「Seestar」アプリをインストールします(iOS / Android対応)。
3. 接続設定:S30の電源を入れ、アプリの指示に従ってWi-Fi経由で本体とスマートデバイスを接続します。初回はファームウェア更新が行われる場合があります。
4. 天体の選択:アプリ内の「天体一覧」や「おすすめ対象」から観測したい天体を選びます。星雲・星団・惑星・月など多彩な天体が登録されています。
5. 自動導入・キャリブレーション:S30が自動的に選択した天体の方向へ回転・仰角を調整し、続けて、内部センサーによるキャリブレーション(姿勢・傾き補正)、オートフォーカス(自動ピント調整)を実行します。
6. 撮影開始とライブスタック:導入と初期調整が完了すると、S30が自動で撮影を開始し、撮影した複数の画像をリアルタイムで「ライブスタック(加算平均)」処理していきます。時間が経過するにつれ、星雲などの淡い天体が次第に画面に現れてくるのが確認できます。
7. 撮影の停止と保存:画面の状態を確認し、満足のいく画像になったところで「露出停止」をタップすると、最終画像がS30本体に保存されます。必要に応じてスマートフォン側に画像を転送することも可能です。
さらに使いこなすために
操作に慣れてきたら、アプリの「詳細設定」から以下のような追加機能を試すことができます(この他にも機能があります):
・露出時間の調整
対象天体に応じた最適な露出設定が可能になります。
・結露防止ヒーターのオン/オフ
湿度の高い夜に結露を防ぐための機能です。
・極軸モードの使用(アップデートにより追加)
より高精度な追尾を行いたい場合に活用できます。
S30で撮影した画像
ここでは、前述の手順に従ってSeestar S30で実際に撮影した天体画像をご紹介します。
上の画像は、オリオン大星雲(M42)、です。月明かりのある条件下での撮影でしたが、S30の高感度センサーとリアルタイムスタック処理により、星雲の中心部から周辺の構造まで、鮮明に描写することができました。スタック時間は約10分です。
次の写真は、おおぐま座に位置するM81とM82のツーショットです。これらは約1200万光年彼方にある銀河ですが、約30分間のスタックで、特徴的な銀河の形状の違いがはっきりと浮かび上がりました。S30の優れた光学性能と画像処理技術によって、コンパクトな機材とは思えないレベルの撮影が可能です。
都会でも撮影を楽しめる光害カットフィルターが内蔵
S30には、光害カットフィルターが内蔵されており、撮影画面でオンオフを切り替えることができます。都会は夜空が明るく星が見え辛いのですが、この光害カットフィルターを使えば、都会の自宅からでも星雲を写し出すことができます。
上は2等星しか見えない都会でS30を使って撮影した亜鈴状星雲の写真です。光害カットフィルターの効果で、亜鈴の形が良く写っています。
太陽や月、風景の撮影も楽しめるS30
星空以外にも太陽や月、夜景や風景などの撮影も楽しめます。特にS30には広角カメラが搭載されているので、広角カメラの画像をファインダー代わりにして構図を合わせて撮影することもでき、S50と比べて使い勝手が向上しています。
上はS30で月を撮影中の画面です。左上の小さな窓に広角カメラの画像が表示されており、これを目安にして、画面のジョイスティックを操作して構図を調整することができます。
なお、太陽を撮影するときは、必ずS30専用の減光フィルターを使用して下さい。減光フィルターを使用しないと、光学系で収束させた太陽の光と熱でセンサーが壊れてしまいますので注意しましょう。
S30とS50の比較
Seestar S30と前モデルであるS50を比較すると、最も顕著なのはその筐体サイズと重量の違いです。S30はS50に比べて一回り以上コンパクトで、重量も約1kg軽量化されており、携帯性が大きく向上しています。これにより、バックパックなどへの収納が容易になり、海外遠征にも持っていきやすくなりました。
内蔵された光学系にも差があります。S50は口径50mm、焦点距離250mm(F5.0)のレンズを採用しています。一方、S30ではコンパクトな口径30mm、焦点距離150mm(F5.0)の光学系に変更されており、軽量化を目指した設計となっています。
撮像センサーにも違いがあります。S50にはSony製IMX462が搭載されていましたが、S30には後継となるIMX662センサーが採用されています。IMX662は暗所性能の向上や、より低ノイズ特性が期待される新しい世代のセンサーです。
S30には新たに広角カメラ(ナビゲーションカメラ)が内蔵されており、構図の確認などに活用できます。単眼構成のS50と比べると、天体導入機能が使えない風景撮影の場面では、S30の方が快適に構図を合わせられる印象を受けました。
S30とS50の撮影画像の比較
下の写真は、S30とS50でそれぞれ撮影したおおぐま座のM101銀河です。S50はS30よりも焦点距離が長いため、同じ天体でもより大きく写っています。このように、視直径の小さな天体を撮影する場合は、拡大率の高いS50の方が適していると言えるでしょう。
一方、視直径の大きな星雲の場合は、S50は画角が狭く星雲の全体像が捉えきれません。下はS30で撮影した、はくちょう座の星雲(メキシコ半島付近)です。S30では星雲の特徴的な部分は構図に収まっていますが、S50で撮影すると一部を拡大する構図になりそうです。
まとめ:S30はコンパクトで使いやすい
今回、実際にSeestar S30を使用してみて、ZWO社のスマート望遠鏡はやはり操作性に優れており、アプリの完成度も非常に高いと感じました。ユーザーインターフェースは直感的で、初めて触れる方でも迷うことなく操作できる設計になっています。ユーザーの要望を丁寧に取り入れて改良を重ねていることがよくわかります。
S30とS50は共通のアプリを使用しているため、操作感はほぼ同一ですが、S30に新たに搭載された広角カメラは構図の確認や導入の補助にとても役立ちました。
光学性能については、口径の差でS50の方が高解像ですが、実際に撮影した画像を比較してみると、S30との差は想像していた程は大きくなく、S30の携帯性や手軽さが際立って感じられました。
S30とS50、どちらを選ぶかはユーザーの用途次第ですが、携行性を重視する方や、旅行・キャンプ・海外遠征などで様々なシーンで撮影を楽しみたい方にはS30が適しています。逆に、視直径の小さい銀河や球状星団といった対象を、少しでも高解像で撮影したい方にはS50がより向いているでしょう。
いずれを選んでも、Seestarシリーズはこれまでの天体撮影のハードルを大きく下げ、誰もが気軽に宇宙の姿を記録できるスマート望遠鏡です。ぜひ、ご自身のスタイルに合った1台を見つけて、スマート天体撮影の世界を楽しんでください。
レビュー著者
吉田 隆行氏 ホームページ「天体写真の世界」
1990年代から銀塩写真でフォトコンテストに名を馳せるようになり、デジタルカメラの時代になってはNHK教育テレビの番組講座や大手カメラメーカーの技術監修を行うなど天体写真家として第一人者。天体望遠鏡を用いた星雲の直焦点撮影はもちろんのこと星景写真から惑星まで広範な撮影技法・撮影対象を網羅。天体撮影機材が銀塩写真からデジタルへと変遷し手法も様変わりする中、自身のホームページで新たな撮影技術を惜しげもなく公開し天体写真趣味の発展に大きく貢献した。弊社HP内では製品テストや、新製品レビュー・撮影ノウハウ記事などの執筆を担当している。