AM5赤道儀のインプレッション
AM5赤道儀は、ZWO社が開発した、波動歯車を用いた赤道儀です。2022年春の発売開始以降、天体写真ファンの注目を集めているこの赤道儀を、実際に天体撮影に使用したので、使い勝手や使用感をご紹介します。
波動歯車を用いたAM5赤道儀とは 一般的な赤道儀は、複数の歯車を用いて、モーターの力を回転軸に伝えています。赤道儀に用いられている個々の歯車は、高精度に加工されていますが、歯車同士をスムーズに動かすためには、ある程度の隙間が必要です。これが、バッククラッシュの原因となり、オートガイド時の反応の鈍さにつながっていました。
ただ、波動歯車は産業用ロボット目的で開発されたため、歯車の精度は高くはなく、追尾精度の面では一般的な赤道儀に及びません。しかし、AM5赤道儀では、恒星時追尾に適した減速比の歯車装置とベルトドライブを採用することでこの点を克服し、バックラッシュがほとんどなく、天体撮影にも対応できる精度を実現したとメーカーはアナウンスしています。
AM5赤道儀の外観
AM5赤道儀の搭載可能重量は、ウェイトレスで約13キロ、別売りのカウンターウェイトを取り付ければ約20キロと、中型赤道儀並みです。しかし、本体重量は5キロと非常に軽く、片手でも持ち上げられる重さです。
AM5赤道儀の架台ヘッドには、ロスマンディ規格とビクセン規格のアリガタを搭載できるアリミゾが標準で付属しています。2つのクランプで固定する形式が採用されており、固定力も強く、質感も良いと感じました。
AM5赤道儀の北側には、USB端子や電源端子などを差し込むパネルが装備されています。電源スイッチは、赤道儀本体側面にあります。なお、極軸望遠鏡は装備されていません。
赤道儀の色は、ZWO社のイメージカラーである赤と黒を採用しています。赤道儀は白基調が多いところ、スタイリッシュさの感じられる配色です。
AM5赤道儀の追尾精度
天体写真撮影はオートガイド撮影が主流となりましたが、やはり赤道儀の追尾精度は天体写真ファンにとって気になる点です。 個々のAM5赤道儀には、メーカーが測定したPEモーションのグラフが付いています。
AM5赤道儀の操作
AM5赤道儀には、ハンドコントローラーが付属しています。ジョイスティック式のハンドコントローラーを動かすと、赤道儀がスムーズに高速駆動し、まるでゲームをしているかのような感覚で赤道儀を操作することができます。
AM5赤道儀とASIAIRの接続は、USBケーブルでつなぎます。電源はどちらもDC12V電源で、AM5側面のDC出力端子から、ASIAIRに電源を供給することが可能です。
パソコンとの接続
ZWO社の公式Webサイトで公開されているAM5用のASCOMドライバーをパソコンにインストールすれば、パソコンからAM5赤道儀を制御することができます。実際に、ASCOMドライバーをインストールし、ステラショット2やステラナビゲーター10で動作を確認してみました。
AM5赤道儀をパソコンから動かしている間は、ASI Mount ASCOM Serverを閉じることはできません。このプログラムを介して、ステラショット2やステラナビゲーターが動いているのでしょう。
接続さえ確立されれば、他の赤道儀と同じように、星図を見ながら自動導入を行うことができます。ちなみに、今でも使用者が多いTheSky6は、LX200互換モードで接続することができました。
なお、ZWO社では現在、パソコン上で動く自動導入アプリを開発しているようです。今後は純正ソフトを使って、パソコンからも自動導入が可能になると思われます。
AM5赤道儀を使って天体撮影
AM5赤道儀を使って、実際に星空を撮影してみました。 使用した天体望遠鏡は、タカハシFC-100DZ望遠鏡です。タカハシFC-100DZの本体重量は約4キロですが、プレートや鏡筒バンド、ガイド鏡、カメラ等を合わせると、7キロほどになりました。
まず、極軸を合わせます。AM5赤道儀には極軸望遠鏡が装備されていないため、ASIAIRのポーラーアライメント機能(以下「PA機能」)を使って、極軸を合わせました。PA機能を動かすと、天の北極付近の星を撮影した後、赤道儀が極軸に向かって左回りに約90度回転し、天の北極と回転軸のズレを解析します。必要な修正量や向きが表示されるので、架台の微動ネジを回して調整を繰り返します。
木星を約300倍で見たところ、縞模様もよく見え、振動も感じられません。一般的なウォームギアを使った赤道儀に比べて、特に像が大きくぶれるということは感じられませんでした。
次に、望遠鏡にバローレンズ(パワーメイト)を取り付け、惑星撮影用のCMOSカメラ、ASI662MCで木星を撮影しました。
上記の結果から、AM5赤道儀は、惑星観望や撮影にも使用できると感じました。
AM5赤道儀の印象
AM5赤道儀を使用した印象や、上記で記載できなかった内容を以下に列挙します。軽量でコンパクトなAM5赤道儀だが、セレストロンEdgeHD800-CG5とガイド鏡等を載せても動作はスムーズで、思った以上に強度があると感じられた。
PA機能は便利だが、北極星の西側の星を使って解析するため、我が家のように北極星の西側の視界が悪い場合は、極軸合わせに失敗してしまう。何か他の方法も追加してほしいところだ。ちなみに、私はPole Masterを付けられるアダプターを自作して対応した。(※AM5用のポールマスター&光学極望アダプターは現在開発中でKYOEIより近日発売予定です)
バランスウェイト無しで運用できるのは便利だが、鏡筒を天頂付近に向けたときにバランスを崩し、機材を転倒させてしまう恐れを感じる。安全のため、三脚のストーンバックに重りを置くか、面倒でもバランスウェイトを取り付けた方が安心だ。
ZWO社の純正三脚は、軽いが強度もあり、使い勝手は良好だった。アダプターを製作してジッツォ三脚にAM5赤道儀を取り付けようとも考えたが、純正三脚の方が、下からボルトで締めあげるので、強度的に有利だと思う。
AM5赤道儀はコンパクトなため、FC-100DZのような筒が長い屈折望遠鏡を載せると、カメラが三脚に干渉してしまう。迷人会工房製のハーフピラー(※近日発売予定)を追加したところ、三脚への干渉も減り、快適に使用できた。
ZWO社の純正赤道儀ということもあり、同社のASIAIRとの連携は良好で使いやすい。今後、ソフトウェアのアップデートで機能が追加される予定もあり、可能性を秘めた機材だと思う。
AM5赤道儀とパソコンは、Wifiで接続可能だが、私が試した限り、ステラショット2やステラナビゲーターでは、USBケーブルをつなぐ必要があった。ソフトウェアアップデートで、Wifiでも繋がるようにしてほしいところだ。
まとめ
実際に天体撮影に使用してみて、AM5は、ZWO社初の赤道儀ということを感じさせない、基本性能に優れた架台だと感じました。追尾精度も良好で、従来のウォームギア式赤道儀と比べても遜色ありませんでした。 小型軽量にもかかわらず、バランスウェイト無しでも10キロ程度の機材を搭載できる強度があり、モーターにパワーがあるためでしょう、撮影中は中型クラスの赤道儀を使っているような安定感がありました。 これまで、波動歯車を搭載した赤道儀は非常に高価だったため、あまり普及しませんでしたが、コストパフォーマンスの優れたAM5赤道儀の登場で、一気に様子が変わってきたように感じます。まさに、天体撮影のゲームチェンジャーではないでしょうか。是非、このAM5赤道儀を使って、新しい世界を体感してみてはいかがでしょうか。 製品レビュー
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