ビクセン FL55SS のインプレッション

ビクセン FL55SS のインプレッション

ビクセン FL55SS

ビクセンFL55SSは、株式会社ビクセンが製造する天体望遠鏡で、2018年7月に発売開始されました。 有効口径55mmのコンパクトな望遠鏡ですが、対物レンズにフローライトレンズを採用しており、小さいながら高性能な天体望遠鏡です。

FL55SS用の天体撮影用のオプションとして、フラットナーレンズレデューサーレンズも用意されています。 天体撮影向けオプションを用いた際の結像性能を調べるため、このコンパクトな高性能機をフィールドに持ち出し、 写真性能を中心にレビューしました。


ビクセン FL55SS について

ビクセンFL55SS鏡筒は、口径55mm、焦点距離300mm(F5.5)のフローライトアポクロマート屈折望遠鏡です。 本体重量は1.5キロと軽く、外観も200ミリ望遠レンズを一回り大きくした程度のコンパクトな天体望遠鏡です。

ビクセン FL55SS

FL55SS鏡筒の下部には、スライドバーMがパーツを介してネジ止めされています。 他の望遠鏡に採用されている鏡筒バンド固定式と異なり、FL55SSはこのスライドバーMを用いて、 アリミゾ式の架台にワンタッチで取り付けることができます。 外観上、小さな鏡筒本体に比べて、スライドバーMが大きく感じられますが、 デジタルカメラを取り付けたときの前後バランスを考えてのことでしょう。

FL55SSには、デジタルカメラで星雲や星団を撮影するユーザー向けに、 フラットナーレンズフラットナーHDforFL55SS)とレデューサーレンズ(レデューサーHD5.5)が用意されています。 どちらも、高性能な補正レンズと評価が高く、FL55SSを天体撮影に使用するなら、 是非そろえておきたいオプションです。 フラットナーレンズレデューサーレンズについては、以下の項目で詳しく見て行きます。


フラットナーHD と レデューサーHD

フラットナーレンズは、その名の通り、望遠鏡が作り出した像を平坦化する機能があります。 FL55SSの中心像は非常にシャープですが、直焦点で星を撮影すると、結像面が湾曲しているため、 デジタルカメラの写野周辺の星はボケたように写ってしまいます。 FL55SSフラットナーレンズを追加することにより、像が平坦になり、周辺でもシャープな像を結びます。

ビクセン FL55SS

FL55SSフラットナーレンズは、「フラットナーHDキットforFL55SS>」というキットで販売されており、 レンズが入ったフラットナー本体と、延長筒(EXチューブ)で構成されています。 使用するときは、上の写真のようにEXチューブにフラットナーレンズ本体をねじ込み、鏡筒内に挿入して使います。 フラットナーレンズを使用したときの合成F値は、直焦点(F5.5)と比べて僅かに暗くなり、F5.7になります。

レデューサーレンズは、焦点距離を短縮し、F値を明るく補正するための補正レンズです。 FL55SSレデューサーレンズを使用すると、焦点距離は300ミリから237ミリに短くなり、F値は5.5から4.3へと、 絞り約2/3段分明るくなります。

ビクセン FL55SS

レデューサーレンズを使用するときは、EXチューブを取り外し、フラットナーレンズの後ろ直接ねじ込みます。 従来のビクセンの補正レンズと異なり、レデューサーレンズ単体では使用できないので、注意が必要です。 購入する際は、フラットナーHDキットforFL55SS>にレデューサーがセットされた「レデューサーHDキットforFL55SS」がお勧めです。

また、フラットナーレンズレデューサーレンズともに、ASコーティングという反射防止コーティングが施されており、 透過率の高さを感じさせてくれます。


FL55SSとフラットナーHDの写真と星像

ビクセンFL55SSを郊外に持ち出し、フラットナーHDを取り付けて、冬の星雲を撮影してみました。 撮影に使用したカメラは、天文用に改造された冷却デジタル一眼レフカメラのAstro6Dです。 赤道儀はビクセンのSXP赤道儀を使用し、ラセルタM-GENでオートガイド追尾を行いました。

撮影対象には、冬の定番構図「オリオン座の馬頭星雲からM42」を選びました。 下は、カメラの感度をISO3200に設定し、露出時間240秒で撮影した画像の全景です。 画像処理は行っておらず、液晶モニターに映し出されたままの画像です。

ビクセン FL55SS

元画像を一見した印象では周辺減光は感じられず、色収差の発生も感じられません。 まず、画像の一部を拡大して結像性能を確認しましょう。

ビクセン FL55SS

上は、馬頭星雲付近を拡大した画像です。 対物レンズにフローライトレンズを使っている効果でしょう、色収差は感じられず、星像もシャープです。 コントラストも良好で、未処理の画像ながら、馬頭星雲の周囲に広がる赤い星雲がよく写し出されています。

次に、周辺星像を確認してみましょう。 下は、35ミリフルサイズの撮影画像の中心と周辺星像を、ピクセル等倍で切り取った比較画像です。

ビクセン FL55SS

各部分の星像を確認すると、中心部は極めてシャープですが、35ミリフルサイズの最周辺部は、 星像が菱形に崩れています。残存している非点収差等の影響だと思います。 ただ、周辺部でも色ズレの発生は感じられず、改めて色収差の少ない光学系だと感じました。

さらに、天体撮影によく用いられている、APS-Cサイズのデジタルカメラの画角の星像を確認してみましょう。 35ミリフルサイズの画像を、APS-Cサイズにトリミングしてみました。

ビクセン FL55SS

上画像のように、APS-Cの画角では、最周辺部まで星像は丸く、写野全面に渡って鋭い星像を結んでいます。 APS-Cセンサーのデジタルカメラなら、周辺部まで、全面に渡って鋭い星像を結ぶでしょう。


FL55SSとフラットナーHDの周辺減光

FL55SSフラットナーHDを付けた時の周辺減光について見ていきましょう。 下は、FL55SSフラットナーHDを取り付けた際のフラットフレーム画像です。

ビクセン FL55SS

35ミリフルサイズの画角ですが、写野端でも減光は感じられません。 画像処理ソフトで画像を強調しても、四隅の光量の落ち込みは感じられませんでした。

確認のため、オリオン座の星雲の写真を強調処理してみましょう。 ステライメージ8を使用し、オリオン大星雲の東側に広がる分子雲が出るまでレベル補正コマンドで強調しましたが、 周辺減光は感じられません。 使用するカメラによっては、ミラーボックスのケラレが生じることはあるかもしれませんが、 FL55SSフラットナーHDの周辺減光の少なさがよくわかりました。

ビクセン FL55SS

参考までに、天体撮影によく使用される、所謂サンニッパの300mmF2.8レンズで撮影した画像を下に掲載しました。

ビクセン FL55SS

300ミリレンズは周辺減光を減らすため、絞りを約1/3段絞っていますが、 それでもFL55SSと比べると周辺減光が目立ちます。 FL55SSには対物レンズと比較して口径の大きなフラットナーレンズを使用していることもあり、 周辺光量はカメラレンズに比べて豊富なのでしょう。


FL55SSとレデューサーHDの写真と星像

続いて、レデューサーレンズを使用した時の星像もチェックしました。 使用したカメラや機材は、フラットナーHDテスト時と全く同じです。 撮影対象も、同じくオリオン座の星雲群です。 F値が明るい分、露光時間は若干短く、ISO3200で180秒露光で撮影しています。

ビクセン FL55SS

焦点距離が短くなった分、フラットナーレンズでの撮影時と比べると、 オリオン座の三ツ星も写野内に入り、画角が一回り広くなっているのがわかります。 元画像を一見した印象では周辺減光は感じられず、色収差の発生も感じられません。 まず、画像の一部を拡大して結像性能を確認しましょう。

ビクセン FL55SS

今回も、馬頭星雲付近を拡大してみました。レデューサーを使用した場合も色収差は感じられず、 星像もシャープです。コントラストも良好で、輝星の輝きから光学系の抜けの良さが感じられます。

次に、周辺星像を確認してみましょう。 下は、35ミリフルサイズの撮影画像の中心と周辺星像を、ピクセル等倍で切り取った比較画像です。

ビクセン FL55SS

各部分の星像を確認すると、中心部は極めてシャープですが、 35ミリフルサイズの最周辺部は、星像が崩れています。 ただ、星像の崩れは放射状に伸びるのではなく、 円周方向にボケたような崩れ方なので、それほど目立たないように感じました。

続いて、天体撮影によく用いられている、APS-Cサイズのデジタルカメラの画角の星像を確認してみましょう。 35ミリフルサイズの画像を、APS-Cサイズにトリミングしてみました。

ビクセン FL55SS

上画像のように、APS-Cの画角では、最周辺部の星像は若干崩れますが、崩れは極めて小さく収まっています。 上記結果から、レデューサーを用いた場合でも、APS-Cセンサーのデジタルカメラなら、 写野全面に渡って、ほぼ丸い星像を結ぶと言えると思います。


FL55SSとレデューサー使用時の周辺減光

レデューサー使用時の周辺減光についても確認しましょう。 下は、FL55SSとレデューサーを取り付けた際のフラットフレーム画像です。

ビクセン FL55SS

35ミリフルサイズの画角ですが、元画像からは写野端でも減光は感じられません。 画像処理ソフトで画像を強調してみると、四隅に近づくにつれ、 光量の落ち込みが確認できますが、その程度は軽微です。

確認のため、先ほどのオリオン座の星雲の写真を強調処理してみましょう。 ステライメージ8を使用し、オリオン大星雲の東側に広がる分子雲が出るまでレベル補正コマンドで強調したところ 、四隅が暗くなっているのがわかります。

ビクセン FL55SS

フラットナーレンズでの撮影時と比べると、周辺減光が発生していますが、 その量はごく軽微で、レデューサーレンズ使用時も周辺光量の豊富な光学系であることが確認できました。

オリオン座の馬頭星雲からM42
大きい写真はコチラ 

大きい写真はコチラ 
撮影機材:ビクセン FL55SS鏡筒フラットナーHDキットSXP赤道儀
使用カメラ:Astro6D
露出時間:300秒×16コマ
撮影条件:RAWモード、ISO3200、M-genにて追尾撮影
撮影機材:ビクセン FL55SS鏡筒フラットナーHDキットSWAT-350 V-spec
使用カメラ:Astro6D
露出時間:180秒露光×16枚
撮影条件:SWAT-350 V-specにてノータッチ追尾

オートガイダーの取り付けについて

ビクセンFL55SSは、鏡筒バンドを使った固定方式ではないため、 通常の天体望遠鏡撮影システムのようにオートガイダーを親子亀方式で取り付けることはできません。 そこで、当初は、タカハシのガイド専用望遠鏡GT-40を赤道儀に取り付け、 その上にアリガタ金具を介して、FL55SSを搭載していました。

ビクセン FL55SS

この方式でオートガイドには問題ありませんでしたが、撮影に使用したところ、 ピントノブを回してドロチューブを前後させると、 拡大したデジカメの画像内で星がぴょんぴょんと動き回ることに気づきました。

また、ドロチューブの固定ネジを締めた際、星の位置がずれる点も気になりました。 ドロチューブが大きく傾くと、スケアリングのズレに繋がり、撮影画像にも影響が出ます。 実際、この組み合わせで撮影した画像を確認すると、左右で星像の写り方が違っている場合がありました。

対策として、スライドバーMを外し、K-Astec製の鏡筒バンド「TB-80/65AS」を使った固定方法に変更しました。赤道儀への装着は、同じK-Astec製のアルカスイス規格プレートDP38-190で固定します。 このように変更してみると、上記で感じた写野内での星の動きは小さくなり、 偏っていた周辺星像も改善しました。

ビクセン FL55SS

TB-80/65ASを使用すると、FL55SS鏡筒は裏返しになりますが、 スライドバーMを取り外した台座部に天文用アルカスイス規格クランプDS38を追加し、 ガイド鏡を載せることができます。

実際に一連のK-Astecパーツを試したところ、FL55SSを快適に使用できるようになりました。 フラットナーとレデューサーを使って本格的に天体撮影を楽しもうという方には、 是非K-Astecパーツを追加されることをお勧めします。


撮影後の印象

今回、ビクセンFL55SSを実際に天体撮影に使用した印象を、以下に箇条書きでまとめました。

色収差が少なく、星像も大変シャープ。 FL55SSの光学性能を生かすには、正確なピント合わせが必要だと感じた。 標準付属のピントノブでは、ドロチューブが大きく動いてしまうため、 減速装置が付いた「デュアルスピードフォーカサー」は、是非装備しておきたい。

補正レンズを使用した際の周辺光量は非常に豊富で、特にフラットナーHD使用時は、周辺減光はほとんど感じられない。 周辺減光が少ないので、フラット補正が合いやすく、 ミラーボックスのケラレが発生しないミラーレス一眼なら、フラット補正も必要ないくらいに感じた。

上記したとおり、ドロチューブの摺動部分の公差が大きいのか、ピントノブを回すと視野内で星が動く点が気になる。 メーカーとして予め対策をお願いしたいところだが、K-Astec製のTB-80/65ASを使用すれば解決する。

ビクセンの高性能アイピース、HR2.0ミリを接眼部に挿し込み、星像を確認したところ、 色収差は感じられず、シャープで、ジフラクションリングも綺麗に見えた。 FL55SSは、写真性能だけでなく、眼視性能も優れた望遠鏡だと感じた。

口径55ミリの望遠鏡とは思えないほど、よく写ると感じた。 焦点距離200ミリ~300ミリ前後の光学系となるとカメラレンズも候補になってくるが、 星像の美しさやコントラストの点で、やはりFL55SSの方が優れているだろう。

軽くてコンパクトなので、ポータブル赤道儀にも搭載しやすい。 実際、ユニテック社のSWAT-350 V-specに載せて撮影したが、ノータッチ追尾で天体撮影を楽しめるのは、とても快適だった。 2020年に発売される予定のポラリエUに搭載してもよさそうだ。


まとめ

焦点距離200ミリ~300ミリ前後の画角の撮影ではカメラレンズを使用することが多く、 小型望遠鏡にはこれまであまり興味を引かれませんでしたが、 今回、ビクセンFL55SSを使用してみて、考えが180度変わりました。

FL55SSは、色収差が良好に補正されているので、青ハロの発生は皆無です。 周辺星像もカメラレンズと比べて良好で、周辺光量が豊富なので、フラット補正に悩むこともありません。 これは、フローライトレンズを採用した効果だけではなく、丁寧に作られたフラットナーレンズレデューサーレンズによるところも大きいでしょう。

天体撮影用の屈折望遠鏡と言えば、口径8センチ~10センチ前後の鏡筒がメジャーでしたが、 ここ数年、口径6センチ前後のコンパクトな高性能機も注目されています。 ビクセンFL55SSは、その中では高価な機種になりますが、眼視性能の高さや高品質な補正レンズなど、 今回のレビューを通じて、価格相応の品質を備えた望遠鏡だと感じました。

ビクセンFL55SSは、星景写真から天体撮影にも挑戦してみようという方に、特にお勧めしたい望遠鏡です。 また、ベテランのサブ機や海外遠征機材としても、確実に結果を残せる優れた望遠鏡だと感じました。



かもめ星雲(IC2177)
大きい写真はコチラ 

撮影機材:ビクセン FL55SS鏡筒フラットナーHDキットSXP赤道儀M-genにてオートガイド追尾
使用カメラ:Astro6D
撮影条件:300秒×6枚、ISO3200

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